我が竜を見よ
北の地で出会ったのは竜であった。
若く猛々しい魂を持った一匹の竜。
その爪に、瞳に、自分は見惚れたのだ。
この刃がぶつかる瞬間が永遠に続けばいいと願ったのは己も同じ。
自分が勝負に勝つことが出来たのは、運がよかったからだと元親は思っている。
別に首を獲りにきたわけではない。
その逢瀬こそが何よりの宝だった。
何でも持っていけと言われて、竜の爪を一本抜き取った。
その爪はどこまでも無機質で、暖かみの欠片もなかったが、その竜と同じように美しかった。
いつからか、竜は鬼の側でまどろむようになった。
爪も牙もひそめたその姿はとても愛おしかった。
自分を求めてくれることが単純に嬉しいとも思った。
牙を抜いたのが、爪をもいだのが、他の誰でもなく己であるということに。
得も言われぬ優越感を感じながら、愛情を注いだ。
一時のまどろみは幸福であった。
それは元親にとって凪に等しい穏やかなまどろみ。
そして空が、海が、動くときがくる。
大きなうねりを感じ取ったとき、元親は己の本性を知った。
自分の性はやはり鬼だ。
側にある大人しい竜を抱きしめることよりも、血の燃えたその赤い瞳にもう一度映りたい。
牙を剥いて、爪を研いで。
北の地で、初めて互いに相対した記憶は今も鮮烈に体の芯に刷り込まれている。
喉の奥が、体の底が熱を帯びて、血が燃えた。
あのとき、自分は腹の底から歓喜し、腹の底から笑っていた。
隣で眠る竜もそうだった。
天下への望みがないのかと言われれば、答えは否。
ただし、それが第一の望みかと問われれば、それも否。
国を全て包む海と同じように青いあの空は。
竜の居場所だ。
元親は、己の竜が大空を飛翔するその姿を見たくなったのだ。
この男にはそれだけの価値がある。
そしてもう一度、空を従えた竜と真正面から相まみえたい。
それが暴れる血を持つ鬼の性。
鬼の望み。
悪いなあ、と元親は声に出さずに謝った。
愛おしく思う心に嘘はない。
けれど自分は、竜を包む温かな腕よりも、竜の皮膚をさく冷ややかな牙をとる。
身勝手だと人は笑うか。
ひどいことをと人は詰るか。
別に理解してもらおうなどとは思っていない。
代わりに教えてやろう。
この竜の爪は強い。
この竜の牙は鋭い。
この竜の瞳は鮮烈だ。
そしてこの竜の魂は美しい。
見るがいい。
稲妻を従えて空を舞うその苛烈でいて優美な姿を。
この鬼が愛した竜だ。
この元親の竜だ。
さあ、天よ、見るがいい。
嵐とともに、それは北から来るであろう。
青い火花を先触れに。
雲下の世界を平らげながら。
一つ目の竜。
独眼竜政宗と名を持つ。
我 が 竜 を 見 よ 。
*あとがき*
「我が〜」というゲームがあるんです。
これはドラゴン育成ゲームでして、
「ウチの子(竜)ってこんなに強いんですよ!こんなに格好いいんですよ!!いいでしょう〜!!!!」と自慢するゲームです。
つまり、兄貴は筆頭を全国津々浦々の皆様にみせびらかして自慢したかったんです!!!(筆頭的にフォローになっていないよねこれ)
しっかし、筆頭にベタ惚れですやん兄貴(笑)あれ、両思いですよ、ね・・・?(奥州から異議ありな声が聞こえてきそう)