その男は陽の光の存在をことごとくその身から廃しながら、どこまでも眩しいその光に映える男だった。

碇槍を肩に背負い大口を開けて、楽しいねえと笑う。
生気に満ちたその頬はかすかに紅潮して、色素の薄い肌に鮮やかな色をおとしている。
その派手な出で立ちなどよりもよほどに目を惹く。
喉の奥が干からびたような気がして我知らず唾を飲んだ。
「嬉しいねえ」
男は目を閃かせて言う。
「あんたも、楽しそうな顔をしてる。馬鹿みたいかもしれねえけどよ、やっぱり嬉しいぜ」
太陽の下あけすけな笑みを浮かべるその顔がまぶしくて目が眩みそうになった。
風は強く、男の銀色の髪を吹き上げていた。
雲が流れていく。
ふと日がかげった。
発達した白色の雲がうずたかく積み上がり背後の青を埋めていくその途中。
眩しいほどにその身を照らしていた光は遮断され、にわかにできあがった薄暗い影の中。
目を眇めた。

欲しい。

余りにも単純で分かりやすいその欲求は本能じみていて、一瞬己自身それが何なのか分からなかった。

欲しい欲しい欲しい。

喉が渇いた。
余興に手に入れたいのでも手足にしたい訳でもなく。
もっと純粋に原始的な感情だった。

アレが、欲しい。

それはどこか焦燥に似ていたが、何と呼べばいいのか名は知らなかった。
獣のように喉が鳴った。
風の音が耳をかすめる。
髪の隙間から覗いたその瞳に、己だけが映っているということを悟ったときには、足が動き出していた。
走り出す。
ためらいはなかった。
全力で。
手に入れたいがために、それだけのために。
分厚い雲が流れていく。
隙間から刹那覗いた太陽がまるで嘲笑うようにしてきらりと光った。