〇.Shine
銀髪というのは確かに珍しかったが、別に初めて見るというわけでもなかった。
なのにその男の髪は、瞬間政宗がはっとしたほどの輝きを持っていた。
硬質な白銀。
鼓動半拍分という僅かな時間。
それでも、確かに、目を奪われた。
その事実に、珍しく政宗は感心した。
己の心をわずかでも揺らせるものがあったことそのものに感動する。
わずかにでも揺れることのできた己の心についても。
抜き身の剣をひっさげて突然乗り込んできた政宗をみても、驚くわけでも、ましてや怒り出すわけでもなく、
ただ珍しいものを見ただけだというように、眉を上げて揺れもしない深い青色の瞳で見返してきた男。
政宗の剣の腕は客観的に見てもこの国で五指に入るものだった。
自惚れではないそれは厳粛なる事実だ。
けれども、その政宗の剣を、男は確かに受け止め流した。
何合ともったことなど久方ぶりのことだった。
剣を合わせているその間、男は笑みすら浮かべているのだ。
一つだけ覗いた空の濃い青のような瞳が、海の瑠璃のようにその色を深く際だたせている。
鮮やかにきらめいている物騒なその瞳に、男自身は気づいているのだろうか。
気負いのない、けれども引き締まった心地よい空気。
剣を合わせながら、男は笑う。まるで我慢できぬというように、唇を弧に描いて。
とらえどころのないその態度はどこか風を思い起こさせた。
丘の上にふく一陣の風。
空を気ままに渡る海賊。
血がざわりと騒ぐそれを、悦んでいたのだということに気づくのは、もっと後のこと。
ふと開けはなったままの扉から流れ込んできた空気。
はっと男の視線が扉を向く。
鼻孔を僅かにくすぐる火の匂いに気づいたときには、舌打ちをした男に強引に腕を取られていた。
全てを理解したのは、自分と男の体躯が窓を突き破って外へ飛び出したときで。
男の手には先ほどまで握っていた剣はなく。
剣の代わりに、この腕をしっかりと掴んだまま。
瞳に映ったのは、男の横顔。
男はただ前を見ていた。
まっすぐに、空の先を。
知らず目を細めた。
まるで眩しい光に目を灼かれたかのように。
その光に瞳を灼かれたが最後。
魂に焼き付けられた影。その影が唆す声に戸惑いながらも手を伸ばす。
触れた指先からこの身が焼け落ちるのなら、それは途方もなく甘美なことに思えた。