オンリー・ロンリー・グローリー


政宗の朝はぶっちゃけ遅い。
学校からマンションまで自転車で15分という立地。
正直にいえば、学力ではなくこの立地の良さで政宗は高校を選んだのだ。
なので政宗は朝はぎりぎりまで布団の中にいる。
起きるのに問題はなく、目覚ましのワンコールですぐに目は覚める。
が、あまり機嫌はよろしくない。
総合して、寝起きは、悪い。
コーヒーを胃に流し込むまでは基本目つきが悪い男、それが政宗である。
そのコーヒーも、本音を言うと、きちんと豆からひいて淹れたいところなのだが、何せ時間が惜しい。
なので朝は買い置きしてある紙パックのコーヒーで妥協している。
着替えている間にトースターに食パンを放り込んで。
口を動かしてパンを腹に収めながら髪をなおす。
テレビの時計を見ながら歯を磨きカウントダウン開始。
デジタル時計の数字が変わったところで歯磨き終了。
玄関に鞄を放り投げ、口をゆすいで家を出る。
自転車を走らせ13分経過。
丁度校門のところで見慣れた背中を発見し。
「Hey!元親!」
声をかけて、横に並びブレーキをかければ、元親は口元を緩めて、鞄を上げてみせた。
「丁度よかった、ここで先にわたしとくぜ」
何だと思っていると、押しつけられたほのかに暖かい四角い包み。
微かに残っていた眠気も綺麗に吹っ飛んで、政宗は予想していなかった手の中にあるものにとまどった。
「おい、これ」
「さすがにそのサイズの弁当箱を鞄に二つつっこんどくのはキツイんだよな」
あっさりと言われた台詞に、手の中に押しつけられたものが予想通りのブツであることを知る。
確かに。
弁当を作ってきてくれるとは言っていた。
言っていたが。
頷きながらもやはり半分、自分は元親の言葉を冗談だとして処理していたようである。
なんせ、政宗の鞄の中には、途中のコンビニで仕入れた昼食代わりのパンが入っているのだから。
左手で自転車を支え、右手には手作りの弁当。
その存在を確かめるようにじっと弁当を注視すること数秒。
「じゃ、また昼にな」
その声で我に返れば、元親は片手を上げてさっさと下駄箱へと行ってしまった。
「お前も急げよ」
笑みを含んだ声に、弾かれたように己の腕時計をチェック。
徒歩の元親とはちがい、政宗は裏手にある駐輪所に自転車を止めに行かねばならない。
呆けて立っている場合ではないのだ。
受け取った弁当をとりあえず前カゴの鞄の上に押し入れて。
ペダルを踏み込んだ。
何故だろう、ものすごくペダルが軽い気がする。
学校に来るまでの間とは大違いだ。
口元にじんわりと刻まれる笑み。
そして、政宗は顔をなでる風に瞬きし、舌打ちを一つこぼした。
「Shit!おれとしたことが」
礼の一つも言えていないことに気づいたときには時既に遅く。
普段通りの朝の風景。
けれどそこに加えられた鮮やかな先制パンチの威力は絶大で。
ここ最近、一方的に負けている気がするのは、気のせいではないだろう。


*あとがき*
ええ。負けっ放しですね筆頭(自覚があるのはいいことだと思います)
伊達はコーヒー党(ブラック・オンリー)
兄貴は基本緑茶党。パンのお供はカフェオレ。ブラックは飲めません。
順調に外堀を埋められている筆頭と、無自覚に外堀を埋めるのは得意な兄貴。