愛情デリバリー


元親という人間は別にお人好しというわけではない。
ただ、元来世話好きな質ではある。
本人に自覚はないのだが、元親の周りに集まる人の多さが、それを裏付ける。
元親の性格は実に好ましいもので。
粗野で乱暴な所もあるが、それすらも肯定的に捉えられるほどに、あけっぴろげで、情に厚く、悪く言えば単純、裏表を感じさせない。
よく怒りもするが、機嫌が直るのも早く、引きずらない。
こういうタイプの人間の周りには人が集まりやすいのだ。
さて、この元親であるが、先にも述べたように、お人好しではないが、世話焼きなのである。
その場の勢いで背負わなくても良い荷物を、自分から進んで背負ってしまう人間である。
これだけを耳にすれば、どことなく損な人間のようにも思えるし、実際そうではあるのだが。
問題は、この男は、その荷物を重荷だとは全く思わないというある意味楽観的ともいえる性格をしていることだ。
元親の朝はそれなりに早い。
別に部活動の朝練があるわけでもない。
元親は帰宅部だ。
早起きする理由は、学生にとって非常に重要な部分を占める昼食、弁当を作るためである。
この日も朝から鼻歌なんぞを歌いながら、卵焼きを焼いていた。
テーブルの上に並んでいる弁当箱は二つ。
丁度二日前、元親は友人の弁当も一緒に作ってやると請け負ったのだ。
実はかなり気になっていたのだ。
本人にも言ったが、3日連続コンビニの冷たい弁当はちょっと自分なら寂しすぎると思うので。
だいたい、メニューもほとんどが肉類で占められているのがコンビニ弁当。
いや、男子高校生的にはいいかもしれないが、体には良くないだろうどう考えても。
普通ならだからといって口には出さないのかも知れないが、そこは世話好き、つまりおせっかいな所がある元親である。
思わず視線をやってしまい、抱いていた感想を口にした。
聞けば、その友人、政宗は一人暮らし。
ああ、そりゃ弁当なんて普通作らないよなと納得はした。
元親も、弁当をわざわざ持参しているのは、半分はコストダウンのためによるところがある。
政宗とは気も合うし、こうやって毎日昼時をともにしているわけでもあるし。
そう考えて頭に浮かんだ案は、元親にはとてもいい考えのように思えた。
どうせ毎日自分は作っているのだし。
ついでに作ってきてやってもいいんじゃないか?
しかもこの男は自分のにくじゃがの味を気に入ったようであるし。
旨いと言われれば誰でも気分はよくなる。
しかも、性格はちょいとひねてる男からの素直な言葉だ。
そう提案すると、政宗は目をまん丸にして、薄く唇を開いたまま呆けた顔で元親の顔を見た。
はっきりいって、間抜け面だった。
何か変なこと言ったかとこちらが首を傾げてしまいそうになるほどに。
しかし結局政宗はよろしくといい、元親は頷いた。
よって、本日から手がける弁当の数が増えたというわけである。
元親にとって家事はそれほど敬遠するものではなかった。
料理をするのはそれなりに好きだし、裁縫も一通りは問題なくできる。
まあ、片づけは苦手ではあったが。
家事に対する抵抗のなさは、元親の家庭環境が大きく影響しているのだろう。
母親は幼い頃に病気で亡くなり、父親は単身赴任中で、元親は祖父母と三人で住んでいるのだ。
やはり、祖父母ももう年だから、なるべく出来ることは自分でするうちに、元親の家事レベルは上がっていった。
この日のおかずは豚肉と野菜の炒め物とブロッコリーのからしあえ、そして卵焼き。
白いご飯の上に梅干しを一個埋め込んで完成。
「うっし!出来た!」
時計の針で時間を確認して、元親は弁当を手早くつつみ、
トースターに入れておいた食パンを口でくわえながら、椅子にかけて置いたシャツに腕を通す。
ついでに作っておいたみそ汁の鍋に蓋をして、牛乳を一杯一気のみ。
ラストは洗面所で髪の毛をチェックして準備完了。
弁当二つを鞄に無理矢理突っ込んで、靴を履きながら行ってきますと言えば、襖の中から行ってらっしゃいと返る祖母の声。
これが元親の朝の風景。
どこまでもお人好しに近い世話好きの、どこまでも平和な朝の風景なのである。




*あとがき*
まあぶっちゃけ兄貴はバッチリお人好しだと思います。
弁当箱はドデカイアルミ製のヤツでお願いします!
兄貴の通学手段は電車+徒歩。
伊達たちは自転車通学圏。
そのうち自転車に二人乗りして通学しだすよコイツら!!(妄想ドライブ)