ニューイヤーイブ
今年がもうすぐ終わる大晦日。
元親は祖父母と紅白歌合戦を見ながら、夕飯代わりの年越し蕎麦を早めに食べて、
そして、年があける一時間ほど前に家を出た。
元親をアニキとしたう中学の後輩達に是非と誘われて二年参りに行くためだ。
ダウンコートを着てはいるが、やはり真夜中は寒い。
空を見上げれば、きんと澄み切った冬の空に星が輝いていた。
元親はコートのポケットに手袋をした両手をつっこんで、夜道を歩いた。
程なくして後輩達と合流し、勝手知ったる神社の参道を、にぎやかに進んでいく。
居心地のいい喧噪だった。
居心地がいいと思いながらも、ほんの少しの物足りなさが胸をなめて、元親は内心で苦笑した。
クリスマスが終わったあと、元親は政宗に初詣にいかないかと誘った。
元親のほうからだ。
三回目のキスを交わしたクリスマス。
お試しが終わったからか何なのかは分からないが、政宗からの連絡はなかった。
拍子抜けした自分がいたのだ。
何せ元親は、何の疑いもなく、政宗が初詣の誘いをかけてくるだろうと思っていたから。
冷静に考えれば、そんな保証も義理も義務もない。
けれど、元親は政宗からの誘いがないことを不満に思ったのだ。
不満と、物足りなさと、ほんのすこしの寂しさを感じた。
だから、元親のほうから誘いをかけた。
「なあ、一緒に初詣いかねえ?」
電話越しに帰ってきたのは、瞬間の沈黙と、バツの悪そうな声。
「悪い、正月は実家に戻ってんだ。外にはでられねえ」
悪いと謝りながらもきっぱりとした断りに、元親は素直にそうかと頷いた。
これだけはっきりと言うのならば、実際それは無理なのだろうと納得したからだ。
「んじゃ、また年明けにな」
明るく電話をきった。
瞬間、胸を通り抜けたのは多分、切なさとか寂しさとか、まあそういった感情だろうと思う。
そう、それくらいには元親は政宗のことを想っているのだ。
一番に誘いたい相手になった。
一緒にいるのが当たり前の相手になった。
うすうすは気付いているのだ、元親も。
己の中で、『伊達政宗』という男が、特別な名前になっていることに。
その『特別』の名前は、まだ見つけていないけど。
物思いにふけっていた元親を呼ぶ声に、返事を返して、元親は足をすすめた。
除夜の鐘がなる。
今年が終わる。
振り返れば、何とまあ笑って、笑って、怒鳴って、迷って、笑った一年だっただろうか。
濃い記憶がきらきらと星のように元親の中で輝いている。
ああ、愛しかった一年が終わりを告げる。
年を送る鐘の音を聞きながら、胸が詰まった。
寂寥感。
けれど、それを押しのける勢いで胸に広がっていくもの。
なあ、来年は一体どんな年になるんだろうな?
きっと今年よりも楽しくて、もしかしたら悩みがふえるかもしれない、けれども愛しい年になると思うんだ。
声を張り上げてカウントダウン。
元親は空を見上げた。
星が輝いている空だ。
遠く距離を超えて、仙台に繋がる空。
元親はふと笑った。
「アイツは今頃実家で何してんだろうなあ」
年越し蕎麦でも食っている最中だろうか。
それとも。
元親と同じように、空を見上げていたりしないだろうか?
あの男が見上げた空も、晴れているといい。
なお凍てついて美しく澄んだ空を仰いでいるといい。
年が明けたその瞬間。
後輩達がそろって、明けましておめでとうございます!!と声を張り上げた。
元親も、今年もよろしくと笑っていたところへ。
メールの着信。
誰だと思えば。
件の男からのあけおめメール。
思わず元親は唇を綻ばせた。
吐く息は白いが、胸はおかげさまで一気にほかほかだ。
「マメなやつ」
こぼした声は我ながら上機嫌であった。
手袋を脱いで、返信を打つ。
「今年もよろしく」
今年も、といえることに喜びを感じているといえば、アイツは笑うだろうか、それとも照れるだろうかと思いながら、元親は送信ボタンを押した。
サンキュー・ラストイヤー
ウェルカム・ハッピーーハッピーニューイヤー