Be Happy
放課後の掃除をそこそこ不真面目に、そこそこ律儀にこなしている政宗に、片手を上げて佐助は軽く笑って見せた。
政宗はどことなく胡散臭そうな顔をして、何しに来やがった?と睨め付けたが、佐助にはそんな険のこもった視線は欠片もこたえない。
まあ確かに。
何かしらの思惑がないかぎり、掃除中の政宗をわざわざ見舞う趣味など、佐助にはない。
何かしらやっかいごとを持ち込んできたか、政宗にとっては面白くない話を持ち込むか。
端からその二択を疑ってかかる政宗にむしろ満足して、佐助は花壇を囲うコンクリートのブロックに腰を下ろした。
校舎の裏、職員達の駐車場と隣接した庭の掃除は、それほど落ち葉やらが散らかりはしないが、範囲が広い掃除場所だ。
なので、丁度駐車場のアスファルトを竹箒で掃いている政宗の側には、他のクラスメイトはおらず、目をやれば、離れた庭を掃いている姿があった。
内緒話をするには好都合。
なので早速、佐助は単刀直入にかつ直球で切り出した。
鞄をアスファルトの上に下ろして、膝の上に両肘をついて、相変わらずの声音で。
「政宗、チカに告ったんだって?」
そうしたらこの男は、顔を赤くするとか、口ごもるとか、動揺するとか、そんな微笑ましい反応なんぞ一切返さず。
ただ一言。
何でもないことのように。
「ああ」
そう一言、こちらを見返すこともなく、こともなげに言ってのけてくれた。
可愛くない反応に、佐助は思わず笑った。
どうやら本気で、かつ、もうとっくに開き直って居直っているらしいと分かったからだ。
なので思ったそのまま感想を口にした。
「可愛げない顔して、なあにマジで頷いちゃってくれてんの」
「テメエに可愛いなんて思われてたまるかよ」
呆れたような横目の視線を向けられて、そうねえと佐助もあっさりと頷いた。
「ま、政宗の人生の中で初めてのタイプだろうとは思ってたけど。
紹介したのもおれ様だしね」
「何が言いてえんだよ。っつうか何言いに来やがった」
佐助はへらりと笑った。
「一年もしないうちにあっさりと捕まっちゃうなんて、チョロいねえ」
「うっせえ」
自覚はあるようで、政宗は嫌そうに眉を寄せた。
チョロくても結構じゃない、と笑いながら続ければ、政宗は片眉を器用に上げてこちらに向き直った。
佐助は喉の奥で微かに笑う。
「オレ様は傍観者だからね」
「・・・」
「おれはまーくんの友達だって言ってんのよ」
「その呼び方はワザとかテメエ?」
ひくりとこめかみを痙攣させる腐れ縁の幼なじみは、
難しそうに見えてこれで結構単純だ。
その単純なところを、佐助は結構気に入っている。
チョロくほだされてしまうところも。
オトされた相手の人の良さは、佐助からしても絶賛するほど。
元親の友人としては、この悪友にはもったいないとも思うけれども、向こうにも脈はナイわけではないらしいから。
それに確かに。
何となく、二人が並んでいる様は、妙にバランスが合っているとも思っているので。
傍観者として見守りましょう?と佐助は立ち上がって政宗の肩を抱いた。
「チカに振られたら残念パーティしてあげるから」
「まだ振られてねえよ。っつうか振られる気もねえよ」
手を邪険に振り払う冷たい悪友に、わざとらしく高い声を上げる。
「まー相変わらず憎たらしいくらいの自信家ぶりね!」
「テメエに自信も持てねえような野郎になびいてくれるようなチョロい相手じゃないんでね」
「まだオッケーもらえてないくせに惚気ないでくれる?」
はっと鼻で笑った政宗は、ふと笑みを収めて佐助を見た。
「テメエの方こそ」
「何?」
「相変わらず、変えようっていう気はねえんだな」
瞬間、すぐさま返す言葉を持たなかった。
見透かされたことを知った。
ホント、可愛くないねえと内心で苦笑。
この男は、ちょっと自分が一歩踏み出せたからと言って調子にのっている。
人の恋路に口を挟むような質でもないくせに。
やっぱり、自分が恋をしていると、人の恋路にお節介になるものなのかね?と考えて、
何げに、その状態に自分もばっちり当てはまってない?と自問自答。
全く持って嬉しくない発見だ。
相変わらずで結構。
自分と政宗は、結構考え方や性格の悪さは似ているところがある。
けれど、やはり自分と政宗は根本的に違うと佐助は思う。
政宗は、一度決めたのなら、陽の光の下、手を伸ばすもののために一途に走り続けることができる人間だ。
そう、元親や幸村のように。
自分は違う。
佐助はそう思っている。
自分は彼らのように走ることはできない。
したいと思っているわけでもなく、だからといって悲観してひねているわけでもなく。
ただ単純に、できないことを知っていて、それが己だと思っている。
隣で走ることを望んでいない。
それがたぶん、政宗との違いだよと。
言おうとして、止める。
柄にもなくお節介を焼く様が、少し生意気で癪に障ったからだ。
「おれは、今のままでシアワセだからね」
走る『彼』の背中を一番近いところで見られること。
真正面からその瞳を見ることも、隣からその前をみる横顔を見ることも、自分には眩しすぎる。
だから、光を受けるその背を眺めるので丁度いい。
「欲しがるだけが能じゃないでしょ」
「テメエらしいこって」
肩をすくめて政宗はくるりと背を向けた。
もう掃除は終わりと問えば、片づけてくるとの簡潔な返事。
いってらっしゃーいと見送って、もう一度佐助はブロックに腰を下ろした。
校舎の影から、太陽の光が細くさし込んできて、反射で目を細め。
「欲しいわけじゃなくて、どうしようもなく眩しいだけだって、おれさまは思ってるんだけどねえ」
そう。
欲しいわけじゃなくて、この胸の奥をじわりと焦がすのは、眩しさ故。
なのに、政宗にまで置いていかれちゃうか、と。
ふと思ってしまって。
目を伏せて佐助は笑った。
柄にもなく、その声音は少しだけ寂しさが混じっているようで、本当嫌になるねと佐助は腰を上げた。
箒を片づけた政宗が戻ってくるのが見えたからだ。
+あとがき+
筆頭開き直り編の佐助番外小話でしたー。
筆頭は、普段ちょっとしたところででる素なところとか、逆に素直になれないところが可愛いねえと、余裕綽々で微笑ましくすら思いながら見てる佐助です。
反面、色々自覚して腹くくって開き直ると全く持って可愛くなくなります。それが筆頭です(笑)
スタンスは似てる口だなあと思いながらも、やっぱり佐助と筆頭は根本で違う気がします。
筆頭も兄貴も幸村も。
先頭切って走り抜けられるけど、佐助は絶対しないと思います。
誰かの後ろを見守って歩いていく人。
能力的に先頭にでれないわけじゃないのに、メンタル的にその気が持てない。
ギラギラした競争心とかに変わる憬れじゃなくて、割り切って諦めて受け入れて大事にしてる憬れ。
そんな感じ。
幸村に対して抱いているのが恋愛感情なのか、何なのか私にもよく分からないんですけども(笑)
ただ佐助の中の一番大事なところにいる人間であることは確かで、彼女ができようが何しようが揺るがない場所なんだろうと、思っております。
学園の佐助はとくに、ほどよく彼女も作ってると思うんですよ(笑)
でも、ほどよく長続きするわけでもない(笑)
一番じゃないでしょうと聞かれたら、うんまあ一番ではないねえ、と素で答える感じ。