What's your voice
カッコなんか気にしなくていい。結果なんて気にしなくていい。
なあ? だから。
ビビルんじゃねえよ、エンジン全開で。



一月ほど前に告白をした。
高校で出来た気の置けない友人だった。
そのうち、友人以上の想いを抱いていることを自覚した。
恋してんだということに気づいたとき、世界が新しく開けた気がして。
政宗は、その爽快感のままに告白をしたのだ。
したのだが・・・。
「政宗よ、今回のおれはひと味違うぜえ!」
ふっふっふと自信に満ちた笑みを浮かべ、元親は帰り支度中の政宗を見下ろした。
告白相手は、仁王立ちで腕を組んでいるこの男。
その手にあるのは、つい先日行われた中間テストの成績表だ。
政宗と元親が成績で張り合うのは一学期からの定番になりつつある。
二人とも得意科目が正反対なので、総合点で競っているのだが、一学期は中間期末とも政宗の勝利だった。
今回こそはと元親は打倒政宗を掲げて頑張ったらしい。
ほらさっさと成績表を出せという要求にしたがって、政宗は机の中に入れておいた成績表を出した。
「せーの、で見せろよ?じゃ、せーの!」
おりゃ、と律儀に擬音語までつけて、元親は己の成績表を政宗の机の上に広げた。
同じく広げられた政宗のそれと見合わせての比較中は息をつめた沈黙。
そして。
「おっしゃあ!!」
両拳を握って元親は念願の勝利の雄叫びをあげた。
「牛丼大盛りサラダとみそ汁つきでよろしく!!」
「・・・OK」
息を吐いて政宗は片手を上げて了承した。
かけているのものは某牛丼屋の牛丼だ。
さっそくいこうぜ!と帰宅部ならではの気軽さで、元親はうきうきと政宗に背を向ける。
「早く来いよ!」
ドアのところで振り向いて笑う元親に、はしゃぐんじゃねえよと声を掛けて、政宗も鞄を手に持った。
告白をしたのは、丁度文化祭の前。
ちなみに、二度、告白した。
二度目、後夜祭の前。薄暗くなりかけた空の下。
返事は、なかった。
無理はないかと政宗は思った。
今まで気の合うダチだと思っていた相手に突然告白されたら誰だって戸惑うだろうし、
自分たちは男同士でもあったのだから。
だから、まあ、すぐに返事がもらえないのは仕方ないと。
自分が置かれている状況とこちらの気持ちを理解してくれたなら、告白という目的は一応達成された。
なので、政宗は取り立ててそれ以上言葉を重ねることもしなかった。
元親に気持ちを伝えられたことで、その時は満足したのだ。
しかし、家に帰ってからはにわかに不安になったのも確かだ。
そりゃそうだろう。
もしかして明日から無視でもされたらどうしようだとか。
人並みの不安は政宗とて抱く。
しかし、別に次の日、政宗は元親からシカトされたりだとか、そういうことはなかった。
笑って挨拶もしたし、いつも通りに皆で昼食も食べた。
元親の態度が変わらぬことに、そのとき政宗は正直ほっとしたのだ。
しかし。
一週間がすぎ、二週間がすぎ。
そろそろ中間テストになるなあといったころ。
別の意味で政宗は途方に暮れそうになっていた。
初めの一週間まではまあいい。
よそよそしく避けられるよりはそりゃ、側で過ごせるほうがいいに決まってる。
しかし、元親の態度はその後もずっと、変わらなかったのだ。
変わらず一ヶ月が過ぎてしまった。
ちなみに、まだ返事はない。
そう、テストなんて終わって、ついでに成績表が返ってきても、元親からの告白の返事はないのだ。
代わりに、喜々として、政宗のおごりの牛丼をかっこんでいる。
その心底嬉しそうな顔をみるのはやぶさかではないが、それとこれとはまた別問題だ。
「ああ〜やっぱタダ飯の味は最高だなあ」
「そうだろうぜ」
ソファに背中を押しつけて、政宗は元親が牛丼を食べる様を手持ちぶさたに見ていた。
それをどう取ったのか、顔を上げた元親はふと、政宗に視線を向けた。
目が合った瞬間、どきりとしたのは、期待か不安か。
元親はにっと笑った。
「喰うか?」
ほれ、と肉をつまんだ箸を目の前に差し出されたとき、
瞬間、政宗は怒鳴り出したい衝動と、一気に気が抜けてへたりこみそうになる衝動と、
その矛盾する二つを抱えて身動きが取れずに固まった。
変に身体を固くしながらも、少しばかりテーブルに身を乗り出して口を開いたのはたぶん、正直な下心からだ。
己の思考回路は、ともかくシチュエーションとしては美味しいと素直に判断したらしい。
しかし。
「・・・なんてな!」
差し出されていたはずの肉は政宗の口に入ることはなく、途中で急激なカーブを描いて、元親の口へとUターンして放り込まれた。
肉を噛みしめながら、元親の目は笑っている。
「・・・」
その動きを欠片も予想しなかった自分は案外ピュアではないだろうか?
「・・・テメエ」
そもそも政宗の精神状態はそれほどよろしいわけではなかった。
そこへこの質の悪い、まことに質の悪いからかいである。
恋する男の純情を何だと思っているのか!
元々鬱憤がたまっていたこともあった。
取りあえず大声をだしてしまえば楽になるだろうという本能的な反応で、政宗は眉間に皺を刻んで元親を睨め付けた。
「喰わせる気がねえなら最初からあんな真似するんじゃねえよ!」
「おれ一人で喰ってるのは気が引けたんだよ、初めは」
「んじゃよこせよ」
「でもせっかくのおごりだ、ちゃんとおれが責任もって食べるべきじゃねえかと思ってよ」
「だったら大人しく喰っとけ!」
「あーなんか牛丼喰ったら暑くなってきたなあ」
「おい」
「お前も暑いんじゃねえの?顔赤いぜえ?」
サラダを口に入れながら、元親は笑っている。
言われなくても己の顔が赤いことぐらいは承知していた。
当たり前だと声に出さずに声を荒げる。
だれだって、そうお前だって、顔を赤くするはずだ。

好きな相手にあんなからかい方をされたなら。

こんなからかいをしかけてくる元親も元親だが、
素直に口を開いた自分も自分だった。
そう、一番腹立たしいのは自分自身。
そんならしくもないことをしでかした要因も、分かっている。
だからこそ、政宗はどうにも消化できぬ苛立ちと恥ずかしさを抱えて、むっつりと黙り込むしかなかった。
そんな様の政宗を見て、元親はにやにやと笑っている。
なので、政宗はいつか自分がされたように。
「って、痛えよ馬鹿!みそ汁飲んでるときに蹴るな!」
机の下で盛大に力を込めて足を蹴飛ばすという奇襲は成功。
笑みを消し飛ばして文句を言う元親を見てようやく溜飲を下げる。
「Han,It's your own falt」
「嫌味かテメエは!文句言うなら日本語で言えや!」
元親は分かりやすく眉をつり上げて文句を言った。
不毛な口げんかともいえないような応酬を繰り広げるのは嫌いじゃない。
この気兼ねのいらない身に馴染んだ距離感も。
牛丼屋から帰路につくころには、日が暮れていた。
日が落ちるのが早くなったと思う。
元親を自転車の後ろにたたせて、政宗の自転車はゆっくりと走る。
ひんやりとした秋の夜風は気持ちいい。
静かで、くつろいだ空気が二人を包んでいる。
政宗の唇を開かせたのは、その身に馴染んだ空気だった。
なあ、と声をかけた。
そろそろしびれを切らしてきたところだったのだ。
告白の返事を促すその言葉はけれど、少しばかり高く聞こえる元親の声によってさえぎるように返される。
「そういやよ、おれんとこ明日数学のテストなんだよなあ」
遮られたことを知りながら口を閉じたのは、その声に多少なりともぎこちない拒絶を聞き取ったからなのかもしれない。
「・・・てことは、そのうちおれのとこでもやるな」
「たぶんなー。六組の連中は真剣抜き打ちだったって嘆いてたぜ」
「テメエは随分余裕だな」
「じたばたしたところでどうにかなるわけじゃねえだろ」
「堂々と言うなよ」
そのある意味立派ともいえる開き直りに、思わず政宗は笑った。
元親も笑った。
けれど、己の肩に置かれた元親の手から、かすかに力が抜けるのが何故か分かった。
そのことを自覚したとき、政宗は唐突に、とある答えにたどりついた。
告白に対して、一ヶ月ずっと返事をもらえなかった理由。
元親の態度が変わらなかった理由。


こいつ。


なかったことにしようとしてやがるな。














+あとがき+
そんなわけでそろそろ筆頭はしびれをきらしてきたもようです(笑)
ガラナはスキマスイッチの爽やか学園ソングですが、
プロモーションビデオがすんごい可愛いくて好きなんです!
そして、学園兄貴sソング認定中です(笑)