天然ヒーロー


学生には分かりやすく分けて二種類の人間が存在する。
学校行事、イベントの類に熱くなる人間と、どこまでもクールな人間である。
自分や、佐助は後者で、幸村は典型的な前者。
燃えまくってる幸村を後目にそこそこに手を抜くのが普段の自分たちの常。
そして、高校で新しく知り合った(殴り合った)友人はといえば。
「政宗え〜!!てめえにだけは負けねえぜ!!優勝はおれら2組がもらう!!」
元親は、完全な前者の人間だった。
ああ・・・。
政宗は思わずこめかみを押さえる。
仁王立ちで暑苦しい宣言をかましてくれた男は、半袖シャツの袖を肩までまくり、やる気十分。
その斜め後ろで苦笑している佐助の姿。
「いくら佐助とチカ殿が相手とはいえ、それがしとて負けるつもりはないでござる!!優勝は我ら5組のものでござる!!のう、政宗殿!!」
暑苦しいのがふえて鬱陶しいことこのうえなかった。
本日は、親睦会もかねたクラス対抗球技大会。
あからさまにクラス行事はどうでもいいと思っている政宗だったので、今日の予定もさっさと負けて、さっさとふける、
という至極分かりやすいものだった。
だというのに。
「oh…おれを巻き込むんじゃねえよ幸村」
何故自分までひっぱりだされて、あまつさえ幸村に無理矢理肩まで組まされているのか。
だいたい対戦表からすれば、二組とあたるのは、実際問題決勝戦までどちらも勝ち残らなくてはならないのだ。
まだ初戦すら始まっていないというのに。
言うだけはタダだが、それが許されるのは他人事の場合のみだ。
そんな一部がハイテンションなノリのなか始まった球技大会。種目はバレーボール。
待ち時間の間、何をするわけでもなく何とはなしに二組の連中を目で捜せば、いとも簡単に見つかった。
なんせ二組は応援も気合いが入っており、一言で言えば、煩く騒いでいるのが二組の連中だと思えばいいのだ。
あの団結力がどこからきているのか、政宗には理解不能である。
まだ知り合って一月ほどのクラス。
しかも、全員が全員、元親のような行事に熱心な人間ばかりで構成されているわけでもないだろうに。
その元親はといえば。
「っしゃ〜〜!!」
見事なアタックを決めてガッツポーズ。
シャツを引っ張って汗を拭う姿は、そりゃあもう輝いていた。
いろんな意味で。
自分と元親は正反対だと政宗は思う。
認めるのは癪に障るが、性格的なものとしてはたぶん、佐助のほうが似ているだろう。
「おっしゃあと二点だ!!つっぱしるぜおめえら!!」
仲間に檄をとばし、返る熱い声は実に楽しげで。
あのコートの中心にいるのは、元親だった。
一層声が大きくなる応援席。
見ていれば分かる。
たぶん、二組のハイテンションさを引き出しているのも、まとめているのも、元親なのだ。
あれはもう、一種の才能なのだろう。
まあ、元親自身は気づいていないのだろうが。
政宗は知らず、笑っていた。
勝ち越しを決めた元親らが拳を振り上げて騒いでいる。
応援席に手を振り返していたその男の一つ目が、己を見た。
元親は目を瞬いたあと、唇をつり上げてひどく得意そうに笑った。
そして、人差し指でご丁寧に政宗を示したあと、親指で己の首をかききる仕草をしたあと、下に向ける。
なんて至れり尽くせりな挑発。
政宗は唇を引き上げて笑みを刻み、そのままその場を後にした。
体の奥底からふつふつと沸いてくるものがある。
正反対な部分も多いというのに、それでも、確かに、元親と自分は似ていると感じるときがある。
あんな子供じみた挑発なんぞ、普段なら鼻で笑い飛ばして相手になどしない。
だというのに、どうして今自分はこんなにもやる気をだしているのだろう?
「これもきっと才能だな」
さっさとここまで来いよ、と不適に笑うその顔に。
いとも簡単に、火を、つけられたというのが。
何よりのその証拠。
人を駆り立てるのが上手い男だと感心して、準備運動代わりに腕の筋を伸ばす。
「決勝でその天狗になった鼻、へし折ってやるぜ」
さぞかし気分はいいだろう。



*あとがき*
兄貴はクラスのアイドルです(真顔)
伊達はロンリーウルフ(痛)
そしてSッ気を刺激される筆頭。
ああ、罪な人ですね兄貴!