スパークリング・イエロー



夏休みに突入してしまえば、元親と顔を合わせる機会もなくなる。
ちょいとばかり、つまらないなと思ったが・・・。
実際夏休みになってみると。
そういうわけでもなかった。
九月の二週目にある文化祭の準備で、何だかんだと言って暇なヤツラは学校に来ている。
祭りごとには全力で騒ぐのがこの学校の伝統らしく、上級生は一丸となってやる気をだしている。
それに引きずられて一年の連中も浮かれている、そんな状況。
普段なら、そう、普段の政宗なら学校行事の準備などは全力で蹴り飛ばすのだが。
家にいても確かに暇なだけなので、学校に律儀に顔を出しているという状況だ。
祭り好きの元親は言わずもがなである。
そしてそんな元親に引きずられてか、タイプ的には政宗と同じ佐助まで、学校に来ているのだ。
何とも言えない顔で互いを眺めたものである。
ただまあ、汗水たらして率先して働くというほどの情熱があるわけでもなく、佐助ともども要領よくさぼってはいるのだが。
今も、屋上へ続く階段の踊り場でさぼり中。
時間は丁度午後三時。
丁度皆だれてくるような時間帯だ。
一番太陽が照りつける時間でもある故に、校内でも指折りの涼しいスポットである屋上へと続くこの踊り場も、それなりには暑い。
シャツのボタンを第三ボタンまであけて、かつ袖をまくり上げていても、うっすらと汗がにじむ。
何をしてるんだろうか、と我ながら思わないでもない。
この自分が、夏休みに学校に来て、汗にまみれているなんぞ。
同じように汗をにじませ冷たいセメントの壁にもたれている佐助は、隣で気怠げにファンタをすすった。
「ホント我ながら目を疑うよね」
「Ah〜?」
「この絵面絶対おかしいって」
「・・・同感だ」
どう考えても互いのキャラじゃない。
「チカってあれで結構人使いうまいって言うか、荒いって言うかさあ」
「中学の時生徒会長だったらしいぜ」
「それマジ?ああでもなんか分かるかも。何でかチカには引っ張られちゃうんだよねえ」
「でなきゃテメエがこんな所にいるわけねえな」
「そうなんだよねえ」
からかい混じりの声に至極真面目に佐助は頷いた。
佐助は暑いのが苦手なのだ。
「で?」
「あん?」
「何で政宗は学校にいるわけ?」
「・・・」
政宗の唇は返事をかえそうと反射的に開いたが、そこからでる言葉はなかった。
何せ、自分でもよく分かっていないのだ。
どうして自分がこんな所にいるのかなんて。
暇だから、とはいうけれど、そんなのは中学時代も同じだった。
中学時代と違う要素で、政宗の中で大きな位置を占めているものなどそう多くはない。
「・・・テメエらも学校に行ってたんじゃ、呼び出せもしねえしな」
「そうねえ。政宗案外寂しんぼだもんね」
政宗は容赦なく炭酸を飲んでいる佐助の頭をはたいた。
その衝撃で炭酸がおかしなところに入ったらしく、佐助はごふりと盛大にむせた。
「ちょっ、気管に入ったじゃないのさ!!痛いんだよこれちょっと!!」
「知るか」
自業自得である。
そんなところへ。
「何やってんだお前ら?」
政宗は顔を上げた。
少し呆れたような、おもしろがるような顔をして、元親が階段を上ってきた。
「やっぱ佐助もここにいたか」
「こいつを連れ戻しにきたんなら遠慮なく持っていけ」
むせて返答できない佐助に代わって答えてやる。
佐助に向けられる政宗の冷たい視線に元親は目を瞬いていたが、手に持っていたジュースの缶を持ち上げて小さく笑った。
「んな面倒くさいことしにわざわざ来るかよ。おれもサボリ」
そう言って元親は政宗の隣に腰を下ろした。
無意識に姿を目でおっていることに気づいたのは、元親が顔をこちらに向けたときで。
上目使いで笑みを向けられ、目が合う。
その瞬間に感じるのは、居心地の悪さかもしれなかったし、焦りのようなものだったかもしれない。
結果取りあえず胸がざわりとした。
「一口飲むか?」
差し出されたのははちみつレモン。
手を伸ばして受け取れば、アルミの冷たさと、その表面を流れ落ちる水滴の冷たさが気持ちよく、
掠めた元親の指の温度がやけにはっきりと感じられた。
政宗はそして遠慮なく缶を傾けた。
乾いた喉を潤す甘ったるいフレーバーと鼻に抜けるレモンの人工的な香り。
普段なら甘すぎると思うところだが、こんな午後には丁度いい。
「ああっ!テメエ一口だっつっただろうが?!何ぐびぐび飲んでやがんだ!!」
元親の叫び声に唇を引き上げて思わず笑う。
何故この気だるい午後にわざわざ学校に来ているのか、なんて。
理由は結局のところ、とても単純な気がした。
「Thanks」
笑いながら缶を差し出せば、元親は政宗の手からはちみつレモンをひったくっていった。
缶の軽さに舌打ち一つして、打ちひしがれている。
「半分も飲みやがって」
「ちょいと甘すぎるがな」
「しかも文句までつけやがる」
はあと盛大な息を吐いて、元親は肩を竦めた。
「テメエに渡したおれが馬鹿だった」
「おれは感謝してるぜ?」
「当たり前だっつの!」
ったく、と諦めた顔で、元親はそれでも唇の端で笑う。
そして、少なくなったはちみつレモンを一気にあおった。
その姿を横目で捕らえて、さっきは丁度いいとも思ったが、やっぱり甘ったるすぎるなと思い直す。
上下する喉。
黄色いアルミ缶は視界をやけにちらつかせる。
次はアイスコーヒーにしろよとそう言えば、ぜってえしねえ!とのやけに力を込めた返答。
「こういう暑い日にゃはちみつとレモンがイイんだよ!すっとするじゃねえか」
「すっとねえ?」
「つうか何次ももらう気でいてやがるんだテメエはよ」
だって何も言わなくてもくれるだろ、と何の含みもなくそう思ったが、口に出すことはしなかった。
何故なら、次もきっちり頂く気だったので。
変に根に持たれて貰えなくなったらもったいない。
ただ、コーヒーにしろといった言葉は結構な本音だった。
だって元親にまたはちみつレモンなんて手渡されたら。
甘さが口の中に残って、すぐに喉が乾いてしまうから。







=あとがき=
そろそろ暑くなってきましたので、
学生の皆様は衣替えして目に眩しい白いシャツをお召しになる時期になってきましたね(何その気持ち悪い敬語)
兄貴と幸村はもれなく爽やか度がアップします。
筆頭はもれなく色気がアップします。
佐助は、冷静さが普段よりアップします。
そしてそろそろ無意識に病の前兆がちらほらと見えてきましたね(笑顔)