桜吹雪と竹ぼうき
放課後共に帰ろうと元親のクラスに顔を出せば。
チカは外掃除だよという簡潔なお言葉。
どうやら新学期早々中庭の掃除当番にあたっているらしい。
ひやかしがてら顔を出せば、政宗の顔を認めた元親は、それはそれは嫌そうな顔をした。
そんな顔をしていただけるだなんて、ご期待に添えて何よりだ。
「テメエ何しに来たよ」
「わざわざ迎えにきてやったんじゃねえか」
「ほう、迎えに、ね」
ほうきの天辺に顎をのせて、元親は政宗を見た。
「手伝ってやろうなんて気は」
「ないね」
きっぱりはっきりと言ってやれば、元親はそうだろうよと息を吐いた。
まるでこちらが薄情のような元親の態度だが、どうせ政宗が掃除当番にあたっているときも、
元親は同じように冷やかしこそすれ、手伝いなどしないのだから、おあいこである。
置かれた大きめの石に腰をすえて、政宗は掃除を再開した元親を見ていた。
こういう日常的な場面での元親は非常に真面目だ。
今も、政宗のことなど意識の外へほうりだして、中庭に散った桜の花びらをほうきでせっせと掃いている。
満開の桜の花はひどく頼りなく。
きっと、あと一度雨が降れば綺麗に散ってしまうだろう。
ほら今も。
柔らかな春風が少し吹いただけで。
ひらりひらりと。
斜に流れる花びらの川。
その下に立つ男の姿。
白銀の髪は、薄いピンクの花びらによく映えた。
無意識に息が細くなる。
まるで、元親という存在も、桜と同じく儚いモノでもあるかのように。
「だああっ!!ったく今掃いたばっかりだっつうのに!!」
突然春の甘く儚い空気をぶちこわした大音量の声に、政宗は目を見開いた。
心臓が盛大にはね上がったが、元親はそんなことは欠片も気にしていないようだ。
気にしているのは、花びらが散った己の足下。
ほうきで地面を叩いて頭をかき回す情緒も風情もないその姿に。
政宗は思わず吹き出した。
その笑い声に、ぴくりと肩を震わせて振り返る顔は、少しばかり赤くなっていた。
「桜にあたるなよ」
「だったらお前が掃除しろよ!!」
「やだね。どう考えても面倒だ」
「分かってんならちょっとは手伝おうとか、そういうのはナイのかテメエは?!」
「見てるほうが楽しい」
そう言えば、元親は顔を赤くしたまま凶悪に眉を寄せた。
唇を引き上げて体をわずかに反らして、政宗は笑った。
「テメエを見てるほうが楽しい」
「おっまえはあ!!」
ほうきをもつ手に力をぎりぎりと込める姿を手を振ってあやして、政宗は足下を目でさした。
「ほら、早くしねえといつまでたっても終わらねえんじゃねえの?」
元親はぐっと言葉につまった。
「終わるまで見ててやるから、さっさとやれや」
「ヤなヤツ!!」
「んなの前から知ってんだろ?」
「まあな!!バッチリ知ってたよ!!」
元親はそうやけくそ気味に言い捨てて、猛然とほうきを動かし始めた。
まあ、吹雪く桜の花びらをすべて掃除しようなんてことは、どう考えても無理な話で。
適当に終わらせればいいだろうに、元親は律儀に花びらを集めている。
目を細めて、政宗は元親を見ていた。
そこにひらりと流れる花びら。
ああ、こんな花見も悪くない。
「ちょっとウルセエけどな?」
政宗は喉でくつりと笑った。
やってられっかと元親がほうきを投げるまでにかかった時間は約10分。
実は、よくぞそれまで真面目に掃除したものだと、政宗は素直に感心していた。
佐助が当番なら三分ももたないだろう。
掃除用具を片づけて、鞄を手渡し、政宗はふと元親の髪に手を伸ばした。
「あん?」
銀糸の中に淡い桜色が紛れている。
「ついてたぜ?」
指で小さなそれをつまんでみせれば、元親は気になったのか己の頭に手をやった。
がしがしとかきまぜながら、少し照れたように笑う。
「さんきゅ」
実際、照れているのかもしれなかった。
この男のことだから、似合わないとでも思っているのだろう。
まあ、確かに情緒や風情といった言葉からは縁遠い雄叫びをあげてはいたが。
それでも。
息と目を奪われた瞬間があった。
元親の目がかすかに丸くなって。
「お」
何故か楽しそうな声。
「何だよ?」
元親の指が政宗の髪に伸びた。
ほら、と差し出された指につままれた桜。
唇を上げて楽しそうに元親は笑った。
「テメエにもついてた」
その笑顔があまりにも楽しそうだったので。
政宗も思わず頬を緩めてしまっていた。
苦笑して己の髪をかき上げる。
「Thank you」
「ユア・ウェルカム!」
自転車の前カゴに鞄を放り込んで、後ろに立つ元親を政宗は振り返った。
「帰りに花見でもして帰ろうぜ?」
鞄を背負った元親は唇を上げて、いいねえと笑った。
道行きにコンビニによって、ジュースとポッキーを買っていこうとそう言う元親に頷いて、政宗は自転車をこぎ出した。
たまには桜並木の下をペダルを漕ぐ足をとめてゆっくりと走るのもいい。
=あとがき=
ウチの学校は白とピンクと八重桜が交互に植えてあって、見ていて非常に楽しいです。
雨がふってなかったんで、かなり桜はもっさりと咲いておりました(笑)
つっついたらすぐに散るんだろうなあと思ってると、ふわりと風が吹きまして。
音もなく流れる桜吹雪に、ああ、やっぱり桜はいいなあと。
竹ぼうきって今でも使ってます、よね・・・?(滝汗)
私桜が大好きですが、家には植えたくありません(超笑顔)
小学生のとき、葉桜の下を歩いていて、木に群がってるヤツが首筋に落ちてきましてね、噛まれたことがありまして(超笑顔)
以来トラウマ★
五月六月は近づかないですからv