劇的ビフォア・アフター
さっきの敵は今の友
要するに、石頭で感化しあったらしい。
佐助は前を行く二人の背中を気の抜けた視線で見ていた。
つまり、中学からの悪友の政宗と、高校に入ったその日に知り合った元親の二人である。
元親の根っこのところの印象が悪友のものとかぶって、案外気があうんじゃないかと思い至り、
紹介したいやつがいると互いに声をかけたのは、確かに佐助だった。
しかし、佐助が紹介する前に。
この二人は階段の踊り場で仲良く喧嘩をしていたのだ。
しかも、最後には頭突きをくりだし、そのまま二人で床に悶絶。
石頭の政宗の最終兵器はヘッドバット。
中学では、政宗の頭突きをくらって床に沈まなかったやつはいなかった。
しかし、世界は広い。広く、そして狭い。
政宗に劣らない石頭がこんなすぐ近所にいるとは、と佐助は実は密かに感心したのだ。
それがよりにもよって、佐助が紹介しようとしていた新しい友人で、しかも、勝手に二人で出会って喧嘩しているのだから。
感心したあと、佐助は感心を通り越して呆れてしまった。
何故かといえば。
「あ〜くっそうマジ腹へった死ぬってこれ」
「Shut up!わざわざ口に出していうんじゃねえよ。余計に腹へるだろうが」
「お前も言ってんじゃねえか」
「お前が言うからだ」
「つうかその牛丼屋まだかよ」
「すぐそこだっつってんだろ。だまってついてこいよ」
「でもまじでそろそろ足下に力がはいらねえんだよ」
「燃費悪い体だな」
「生憎とタッパがあるんでね。消費カロリーもそれに比例するんだよ」
「それでへろへろになってちゃせっかくのタッパもダセエだけじゃねえか」
「んだとうっっ!!!あ〜だめだ。喧嘩する元気もでねえ」
「無駄口叩いてる間にもう見えるだろうが」
「どれだよ?」
「ほら、あれだ」
「ああ、あれかあ!!」
政宗が指し示した牛丼屋の看板を認めて、元親は頷いている。
昼飯が原因で派手な喧嘩をやらかしたこいつらは、午後はもう生きる屍のようになっていた。
放課後に牛丼屋によるのは、まあ当然のなりゆきかもしれないが。
「なんでそこで勝手に意気投合してるかなあ」
普通、険悪な状態になるのではないのか?
教室にもどったあと、元親は佐助に聞いた。
「あの馬鹿みたいに堅い頭のアイツは何て名前なんだ?」
そして、同じことを別れる前に政宗に耳打ちで聞かれた。
ああ、頭突きで生まれる友情。
石頭って素晴らしい。
そして放課後。
わざわざ教室までやってきた政宗は元親に言った。
「腹減ってるよな?」
「死ぬほどな」
「腹にたまるもん喰いにいこうぜ?」
「いいねえ」
以上。
なんだろう、気があうとおもって紹介しようと思ったのは、確かに佐助なのだけれども、何故だか微妙に釈然としない。
とろんとした目で、牛丼屋に入る背中を追って、佐助も店に入った。
二人が声をそろえて「大盛りで」と注文するのを、茶をすすって見守っていた。
待ちに待った食料をかき込みながら。
「お前、名前なんてんだ?」
佐助はほおづえをついていた腕から力がぬけるのを感じた。
そういえばこいつらは道であれほど実りのない馬鹿な会話をしていたくせに、
自己紹介だとかそういうことは全然口にしていなかったということに気づく。
佐助が脱力している間に、今更な自己紹介は無事に終わったらしい。
「ちょうそかべって言いにくいだろうから、元親でいいぜ。そんかし、おれも政宗って呼んでもいいか?」
「OK 元親」
何なんだろうか。
何だかもうどうでもいい気がしてきた。
ショルダーバッグを肩にかける手も我ながら面倒くさそうだ。
「おれは先においとまするよ」
「何だよ、結局何も喰わねえで帰るのか?」
「旦那たちと違って昼はちゃんと食べてるんで。それにそろそろ夕飯の用意しなきゃだし。今日はおれさまの当番なんだよねえ」
じゃと片手をあげて席をたてば、箸をくわえて手を振りかえされる。
帰途につきながら。
疲れた息を吐いて呟いた声はそれでも笑みを含んでいて。
「でもまあ、これからが楽しくなりそうで嬉しいよ」
*あとがき*
この面子に幸村が加わってわいわい騒いでいきます。
佐助はかなりイイ性格してますが、みんなのオカンです。
ここの兄貴sは基本、アホっ子ですのでヨロシク!!