LOVE LOVE SHOW
たまにはそんな気分の日もある。ねえ、だから。らぶらぶしましょう?
その日、朝から元親の様子はどことなくおかしかった。
朝、自転車で駅まで迎えに行った政宗は、今度おれがこぐから、今日は後ろにのりたいのだと、元親にあいさつもそこそこに頼まれた。
一緒に通学するようになってからは、政宗の自転車に二人乗りしての通学であるが、自転車のこぎては毎日のじゃんけんで決めていた。
真剣な表情で頼み込まれた政宗は、その真面目さに気圧されて、おうと結局頷いた。
訳が分からなかったが、まあ別に自転車をこぐくらいで駄々をこねるような、そんな器の小さな人間ではないつもりだ。
もとより、大事な恋人である元親の頼みである。
「OKいいぜ。んじゃ後ろ乗れよ」
そういって背後を示せば、元親はぱあっと顔を輝かせて鞄を背負い、何故かいそいそと後ろのステップに立った。
二人のりなんざ馬鹿らしいほどにやっているのに、何故こいつはこうも嬉しそうなんだろうと、朝から首を捻ったものだ。
だが、元親の嬉しそうな顔を見て、自然と政宗の機嫌も上向きになった。
男とは単純な生き物なのだ。
しかし、それだけでなく、学校についたらついたで、休み時間に、元親はわざわざ政宗の教室までやってきた。
「教科書か、それとも辞書か?」
てっきり何か忘れたのかと思ったら、そういう訳ではないらしい。
「あのよお」
「あんだよ?」
そこで何故かちょっとだけ顔を赤く染めて、元親は政宗の耳元でこっそりと囁いた。
「帰り、お前ん家寄ってっていいか?」
思わず、鼻血が出そうになった。
比喩ではなく。
だが、それ以上に、こいつ今日は一体どうしたんだ?!というとまどいと心配のほうが勝った。
しかし、である。
恋人にそんな可愛いお誘いを受けて、お前何か悪いもんでも喰ったのか?!などとは口が裂けても聞けない。
熱でもあるんじゃあるまいな、と実は結構心配だったりしても聞けやしない。
熱で浮かされての言動ならそのまま保健室へおくればいいが、
もしそうでなかったら、元親はきっと機嫌を悪くしてふいとそのまま帰ってしまうだろう。
せっっかくの誘いをふいにする気は欠片もなく。
内心の動揺を押し殺して、政宗は唇を引き上げて笑みをつくり、頷いた。
「いいぜ」
政宗のポーカーフェイスに、元親は今更ながらに自分が口にした台詞が恥ずかしくなったのか、
じゃ、じゃあまた昼にな!!と慌てたように帰っていった。
そのまま元親の背中を見送り。
政宗はがくりとその場にうずくまった。
教室の入り口でうずくまっているのだから、邪魔なことこのうえないのだが、周りへの気遣いなんぞ政宗の頭にはなかった。
なんなんだ今日のアイツはっっ!!!
心の中で絶叫する。
いつもの三割増しで可愛いではないか!!
「絶対昨日ヤバイもん喰ったに違いねえ」
ぼそりと呟いた言葉は半ば政宗の本心だった。
そして昼休みには。
「唐揚げと卵焼き一個」
「乗った」
弁当の中身をトレードする際、政宗がひょいと唐揚げを元親の白飯のうえに置けば、元親は卵焼きを箸でつまみ。
「ほら、政宗」
口元に差し出された卵焼き。
にっこりスマイルのおまけつき。
ぴしりと固まったあと、気がつけば政宗は差し出された卵焼きに食いついていた。
ああ、既視感で目眩がした。
ふと、気がつけば、二人と向かい合うようにして座っている佐助が、砂を吐いていた。
幸村は目をまんまるにして自分たち二人を見ていた。
今更ではあったが、さすがの政宗も恥ずかしくなった。
帰り際も元親を後ろにのせて自転車をこぎ、己の部屋についた瞬間、政宗はがっと元親の肩をつかんだ。
「政宗?」
目を見開いた元親の抜けた表情に脳天を打ち抜かれながらも、一つはっきりさせておかねばならないことがあった。
「お前、今日熱でも・・・」
あるのか、と最後まで政宗の台詞が続くことはなかった。
熱、の一言に瞬いた元親は、はっと顔色を変えて。
「お前、熱あんのか?!」
慌てたような声。
そして元親の手が政宗の頬に添えられ。
そのまま、額に額が寄せられた。
ごつりと音がしたその状態に。
ああ、別に元親は熱があるわけではないらしいと冷静に判断しながら、政宗の脳みそはもの凄い勢いで強制終了されていく。
とりあえず。
この可愛い生き物を先に喰っちまおう。
「別に熱はねえと思うぜ?」
小首を傾げるその首の後ろに手のひらを差し込み。
左手で玄関の鍵をかけながら、ちろりと舌が覗くその唇に唇を押しつけた。
玄関先で一回、ついで政宗のベッドでもう一回、いたした後で。
「今日どうしたんだよ?」
「ああ?」
返ってきた野太い声には恥じらいやらそういったものは欠片もなくて。
ああ、これでこそ元親!と政宗は妙なところで頷いていた。
ベットにうつぶせになりながら、元親は政宗の枕をだきこんで顎をのせた。
政宗の質問の意図は分かっているのか、元親はそのまま空を数秒睨んだ後、ぼふりと枕に顔を埋めた。
「元親」
「言いたくねえー。つか、言えねえー」
「Why?」
「おれのキャラじゃねーから」
そのどこか拗ねてるようにも聞こえる言い方に、政宗は瞬いた。
ものすごく、今更な気がするのは気のせいだろうか?
ただ、そのまま素直にそう言えば最後、元親は唇を貝のように閉じてしまうだろう。
政宗は手を伸ばして元親の髪をなでた。
耳にかかる手触りのいい髪をかき上げて、覗く耳に唇を落とす。
ぴくりと体を揺らすその反応に気を良くしながら、耳の形をたどるようにして舌を這わせ。
「言えよ」
低く抑えた声で一言、耳に流し込んでやる。
そのとたん、分かりやすいほどに元親の耳が赤くなるのが分かり。
ああもうこいつやっぱり可愛いわと、政宗が勝手に気をよくしていると。
元親はがばりと体を起こした。
お?と思い目を見開くと、元親は赤くなった顔のまま、真顔で唇を開いた。
「政宗え!」
「あん?」
「後ろ向け」
「何で?」
「いいから!!」
意味が分からないままも、とりあえず今日は素直になろうかと、政宗はベットのはしに腰掛けるようにして元親に背を向けた。
何なんだと思っていると。
背中にぺたりとひっついてきた体温。
ホント、今日はどうしたんだろうと政宗は思う。
熱があるわけでもなく、変なものを食べたわけでもないのなら。
頭をめぐらせて、たどりついた一つの言葉。
政宗は首だけで背中にひっついた元親を振り返った。
「もしかしてお前、甘えてんのか?」
間抜けな聞き方だが、政宗は真面目だった。
真面目に聞いた。
元親は何故か、赤い顔で忌々しそうに顔を歪めた。
「お前、気づくの遅すぎ」
首にまわした腕に力を込めて、元親は顔を伏せた。
「おれだってなあ、たまにや好きなヤツとイチャコラしてえんだよ!!!」
なるほど、と元親の言葉に、政宗は内心で頷いた。
本日の元親の行動にも納得がいった。
なるほど、確かにイチャイチャという言葉通りである。
そういうことなら大歓迎。
「OK,Honey!I got it!よし、じゃあイチャイチャしようぜ!!」
「おっせえんだよこの甲斐性ナシ。もう帰る時間だっつの!」
「んなつれねえこと言うんじゃねえよ」
「おれは明日朝一で体育なんだよ。泊まったら確実に死ぬだろ、おれが」
それに、と元親は片腕でさりげなく政宗の首をしっかりと圧迫しながら、政宗の顔を後ろから覗き込んだ。
「おれはイチャコラしたいわけであって、別にヤリてえわけじゃねえんだ」
「はあ?!どうちがうんだよ?」
「違うだろうがよ!!」
「だからどこが?!」
「そんくらいテメエで考えろ!」
そう吠えて、元親は政宗の首を解放した。
そしてさっさと服を着て帰る身支度をする。
ベッドの上であぐらをかいて、今度は政宗が拗ねる番だった。
政宗の顔をみて、元親は笑った。
「ちゃんと考えとけよ?健全な、ヤル以外のイチャコラする方法」
「健全ねえ」
首を捻れば、元親は部屋を去り際に一言、素晴らしい野望を語ってくれた。
「土日で実行するからな!!」
「?!」
そして元親の宣言通り、週末思う存分イチャコラした。
近年稀に見る、充実した週末であった。
=あとがき=
まあ、みなまで言うな!!(笑顔)
大丈夫、アタイ正気だから!!(余計に質悪い)
バカポー警報発令中。
兄貴のいう健全なイチャコラとは、手繋いで帰ったりとか、一つのグラスにストロー二本さしてジュースのんだりとか。
食べさせあいっこしたりとか、かっぷる座りしながらテレビみたりとか。
・・・ええ、そんな可哀想な子をみるような目でみないでくださいっ(目をそらす)