主要二科目の男
所詮、重視されるのは主要二科目、英語と数学。
学生の一大イベントの一角。
一学期中に行われる二度のテスト。
勉強なんて気にしてない学生たちも、テスト前には浮き足立ち、今更のように勉強してみちゃったりする恒例行事である。
元親はこれまでになく本気になっていた。
中間テストはそれほどでもなかった。
まあ中学時代の復習も多く含まれていたため、力をいれなくても、まあそこそこ及第点がとれたのだ。
しかし、である。
そんなユルイノリも、とある男の成績をみた瞬間にどこかへ飛んでいった。
お前何点だったと軽い気持ちで尋ねた元親に、あっさりと、さらっと真顔で返ってきた点数。
その答えに石化した元親は、引きつる唇で続けた。
「そ、そりゃあ、さぞかし勉強したんだろうなあ」
しかし。
わざわざテスト勉強なんてするかよ、とソイツはのたまった。
軽くため息まで吐いたあとに、お前はと問い返されて思わず隠した成績表。
しかし、自分だけ教えないのはズルイんじゃねえのというもっともな言葉に、ひょいと紙を奪われて。
唇に一瞬浮かんだ小憎らしい笑みに。
元親はリベンジを誓ったのである。
そして、いつにも増して気合いをいれて臨んだ夏休み前の期末テスト。
結果は。
「何でだ・・・」
「Ha, 現実を見ろよ、元親」
「何で・・・」
廊下に張り出された成績優秀者の張り紙を眺めながら、元親は期末テストの成績表を持っていた手に思わず力をいれてしまった。
ぐしゃりと紙が折れ曲がるのにも気づかずに、張り紙を見ながら、元親の顔は自然と歪んだ。
総合点での優秀者だけでなく、英語と数学の二科目の成績優秀者も張り出すのが、この学校の特徴なのだ。
中間テストで初めてその張り紙を見に行ったとき、元親は盛大に目を剥いた。
馴染みのない名前ばかりのはずが、何故か一つ、よく見知った名前があったので。
そう、伊達政宗という名前。
そして今回も。
「数学、1位・・・」
張り紙の中でも一番上に燦然と輝く名前。
そして。
「英語、5位・・・」
全クラスの中で5位。
ついでに言うなら、クラス内では1位だったそうだ。
「勝負は総合点だろうが?!おら、その成績表みせろ!!」
せえので見せ合った成績表。
5教科の総合点。
差は23点。
結果は。
「おれの二連勝、だな?」
にやりと唇を引き上げて笑う顔の憎たらしいことといったらない。
元親はぎりぎりと歯を噛みしめた。
「部活にもはいらねえで引きこもって勉強してたんだろう!!」
「お前も入ってねえだろうが」
「ああうるせえうるせえ!」
政宗の言うとおりであった。
中間テストでの屈辱をバネに、テストの二週間前から、元親はテスト勉強にいそしんだ。
そりゃもう頑張った。
まあ放課後ゲーセンに行ったり、それなりに遊んだりもしたけれど、それでもケジメはつけて、勉強していた。
だというのに・・・。
肩をおとし、じとりと視線で睨め付ければ、憎き敵の政宗は。
「ま、こんなもんだろ?」
軽くそう一言。
その人を見下ろしたような態度。
ぷつりと元親のどこかがあっさりと切れる。
「納得いかねえっっっ!!!」
元親が繰り出した拳をあっさりとかわして、政宗は上機嫌に笑った。
「牛丼大盛りテメエのおごりだ!!You see?」
「アイ・シー、・・・なわけあるかあっっ!!」
***
元親はやさぐれていた。
「だいたいよお、どうせ張り出すなら英数だけじゃなくて全科目張り出せってんだよなあ?」
「面倒くさいんだろ」
「なら英数も張らなきゃいいだろお?」
「英数は大事だからだろ」
「じゃあせめて国語は入れようぜ。英語なんかよりよっぽど大事じゃねえか、国語。
自国語だぜ?自国語!!できなきゃ日本人として駄目だろ?!」
「・・・つまりおれは駄目だと、そう言いたいのか元親くん?」
政宗は牛丼を綺麗に食べ尽くした丼をごとりとテーブルの上に置いた。
きちんと箸をそろえて、丼の上に置く。
行儀悪くテーブルに肩肘ついた元親は、空の湯飲みを右手でまわしながら上目遣いで政宗をみやる。
「いえいえ別にイ?何たって政宗クンは数学は学年一、英語はクラス一な優等生くんですからねえ。
ええ、たとえ現国が赤点ぎりぎりだとか、古典が赤に足つっこんでいようが!」
茶を流し込みながら政宗も元親をみやった。
「そういうテメエも化学は余裕で赤だったじゃねえか」
「世界史で点とってるんだからイイんですう!」
「英語は平均すれすれだった」
「平均あるんだからいいだろうが。平均ってのはつまり、人並み一般ってことだろうが!」
「数学は平均なかったよな」
「一点だけだ!!」
「けど一点足りなかったじゃねえか。つまり、平均にとどいてねえってことだろ」
「一点だけだろ!!」
「一点だろうが十点だろうが、平均ナイって事実は一緒だろ」
「違うだろ!!つうかテメエだって世界史平均なかっただろ?!」
「化学はあるんだからいいじゃねえか」
「倫理にいたっては赤だっただろ!!人としてどうかと思うぞおれは!!」
「・・・だから?」
茶をすすったあと、真っ正面からそう斬り返されて、元親は言葉に詰まった。
背もたれに体を預けながら、腹がふくれて満足したのか、そこはかとなく政宗の態度は余裕がにじんでいた。
というか、むしろ、偉そうだった。
「得意不得意が違うから、総合点で競うことにしたんだよなあ?」
「ぐっっ」
「倫理で赤とろうが国語で赤とろうが、足してしまえばどうにかなったじゃねえか」
ええ、そうですね!と元親は心の中で拳を握った。
「人としてヤバかろうが、日本人として駄目だろうが、現実はどうなったよ、元親ア」
現実は無情だ。
「・・・ぢぐじょー」
テーブルに突っ伏して潰されたカエルのような声で元親は力無く吠えた。
くつくつと政宗は喉で笑っている。
非常に楽しそうだ。
「んだよ、それ」
「おれの今の気持ちだ」
「濁点がかよ」
「そだよ。濁点な気分なんだよ!」
そうかそうかと頷いて、政宗は手を伸ばしてきた。
突っ伏した元親の頭を偉そうな手つきでぽんと叩く。
元親は顔だけをあげた。
「タダ飯は旨かったかよ?」
「まあまあだな」
「っち!!」
元親はテーブルのしたで政宗の足を蹴りつけようとしたが、あっさりとかわされる。
どこまでも可愛くない男だ。
テーブル上の政宗の表情が余裕なまま変わらないのも癪に障った。
「で?」
「ああ?!」
「さっきから何拗ねてんだ」
「何って、何にだよ」
「やけに国語にこだわってたじゃねえか」
ああと元親は頷いた。
そう、元親が納得いかないのはそこなのだ。
総合点で負けたのは、まあ悔しいが、納得はしている。
「国語だったらよ」
「おう」
「おれの名前ものったかもしれねえじゃねえか」
「・・・Ah〜, I see. 張り紙か?」
「おう」
政宗の得意科目が英語数学の主要2科目なら、元親の得意科目は国語だった。
特に古典はかなりイイ線をいっていると思っている。
「そうだな、あの点数ならきっちりのったと思うぜ」
「だろ〜?」
はあと息を吐けば、政宗は不思議そうな顔をした。
「そんなに名前、のりたかったのか?」
「そんなんじゃねえよ」
別に自分の名前を売りたいわけでも、自慢がしたいわけでもない。
ただ、単純に。
「テメエばっかり、ズリイじゃねえか」
「・・・What?」
だから、と髪をがしがしとかきまぜてやけくそ気味に言った。
我ながら、ガキっぽい、くだらない意地だと思っているが、仕方ない。
「テメエの名前だけ張り出されてるっていう状況が何かムカツクんだよ!!」
政宗は何故か数秒、目を丸くしてじっと元親を見ていたが。
そののち、声を上げて爆笑した。
「ああちくしょう分かってるよ!!結局は英数がものをいうんだろうよ!!」
体を折り曲げて笑いながら、政宗は目を閃かせて元親に視線を向けた。
息も絶え絶えに。
「お前、生きにくい男だなあ」
「そういうお前はどこまでも生きやすい男だろうよ!」
笑われることは自分でも分かっていたので、しばらくは何も言わずに顔を赤くして元親は耐えていたが、政宗の笑いは収まることがなく。
すぐに耐えきれなくなった元親は、問答無用でテーブルのしたで再度足を繰り出した。
今度は見事な手応え、いや足応えがあり。
「いってえっっ!!」
痛いと文句をたれつつも笑い続ける政宗に、次は絶対勝ってやる、と元親は財布から取りだした野口英世に誓った。
次こそは自分がタダ飯を食ってやる。
牛丼大盛りにみそ汁のオプションもつけさせてやる、と。
=あとがき=
成績表張り出しってイヤですよねえ。
昔テレビドラマとかでは全員の成績順を張り出し、なんてシーンがありましたが、あるんでしょうか、そういう学校(汗)
私の所はなかったんですが、張り出されてたら討ち死にしてましたね。
・・・いや、案外逆に必死で勉強したかもしれないが。
それにしてもコイツら、点差正直すぎますね。
私の学校も、好き嫌いで点数が極端に差が開くタイプの人間が多かったのですが。
他の二人の成績は、佐助はオールマイティに良いです。上位として張り出されるちょい下くらいを全科目キープしてるといい。
幸村は・・・。熱意と努力と真面目さという授業態度と提出物で首をつないでいると思います(笑顔)
そして補習常連組へと・・・。
牛丼屋というと吉牛が有名ですが、私はナ○ウしか入ったことないんですよ。
なので支払方法が食券制なのかどうなのか。
高校生なら、マクドナルドとかにいけよと思うんですが、あそこは西と東で呼び名が代わるんで、出しづらいなあと(笑)
ちなみに私は「マクド」の地域在住です。