HEAD×BAT
初めはベタな出会いから。
後で紹介したいやつがいるとそう佐助に言われて、元親は購買で買った昼飯を手に持ちながら屋上へと向かった。
新しい友人とその紹介したいヤツは先に屋上に行っているはずである。
本日の戦利品はカレーパンと焼きそばパン。おともはパックのカフェオレ。
同じクラスメイトの佐助は弁当組。
まだ不慣れな校舎を歩いて、階段を登る。
その丁度踊り場のところで、ダッシュで駆け下りてくる人間と遭遇。
ふつうならひらりと避けてそれで終わりなシチュエーション。
別に真正面からぶつかりあって、なんていうマンガみたいな事態にはならない。
このときも、廊下は走るなという学校ルールを全力で無視している男を、元親はひょいとかわした。
かわしたはずなのであるが。
ちょいとばかり今日は運がよくなかった。
指先でパンの袋の端をつまむようにして持っていたのも悪かった。
元親は問題なくとも、手に持っていたパンが、男をかわしきれなかったのだ。
あっさりと指から離れて宙を舞う元親の焼きそばパンとカレーパン。
「あ!」
「An?」
廊下に落ちただけならまだ元親はその男を広い心で許せた。
パン自体はちゃんとビニル袋に入っているのだし。
けれど。
ぱしん。
これはパンが廊下に落ちた音。
ぐしゃ。
ではこの音は?
男の上履きが容赦なく落ちたパンを踏みつぶした音だ。
普段なら、それでも元親はキレるまではいかない。
きっちりと謝ってもらえれば、まあ立つ腹もおさめよう。
がしかし。
高校に入学して今日で二日目。
競争率が激しかった購買で、望みのパンを手に入れるのには結構苦労した。
そしてこれが一番だが。
元親は空腹だった。
飢えは人を変えるのである。
「テメエ何してくれやがんだコラァ!!!」
焼きそばパンを踏みしめている男の胸ぐらを容赦なくひっつかんでの第一声。
先輩だったらだとか、そんな仮定は元親にとっては何の意味もなさなかった。
元親の本気の啖呵はかなりの迫力がある。
そして元親は背がでかい。
が、その男は悲鳴まじりにすくみ上がることも、すみませんと謝ることもしなかった。
逆に。
「Aa?!」
元親に負けず劣らずなほどの目つきの悪さでもって下から睨みつけ、こちらのの胸ぐらを掴み返してくる。
寄せた顔には、自分とは逆の位置にある眼帯。
「いきなり何しやがんだ?!」
「そりゃこっちの台詞だ!!人の昼飯を台無しにしてくれやがって」
「昼飯ィ?!」
「テメエのその右足の下にあるやつがおれの昼飯だ!!」
覗いた一つの目が下を見遣り、そしてまた間近にある元親を見た。
「ohこりゃsorry 」
ようやく己のしでかしたことが分かったかと、元親は少しだけ落ち着いた。
「おうよ」
焼きそばパンの残骸がこれで少しは報われると思いきや。
「ってわけで手離せ」
「それだけで済ます気か?!」
思わず目を見開いて、相手のシャツを掴み上げる手に力が逆戻り。
「ああ?!ちゃんと謝っただろうが?!」
あれで?ソーリーの軽い一言で?
もうちょっとこう、あるだろう?!
「誠意ってもんがたりねえんだよ!!」
「誠意だあ?!人の胸ぐら掴み上げてガン垂れてる野郎にどんな誠意を見せろっつうんだ!」
「それはお前がおれの昼飯を踏みつぶしたからだろうが!!つうかまず廊下を走るな!!小学校で習わなかったのか!」
「急いでたんだよ!!つうか今も急いでるんだよ!!テメエにかまけてる間にもおれの昼飯が」
「テメエの昼飯なんざ知るか!
おれだってお前が人のパンを踏みつぶしてくれたおかげで、午後は腹へらさなきゃならねえんだよ!!」
「また買いなおしゃいいだろうが!」
「もうねえんだよ!」
「What?!ない?!」
顔色の変わったその表情に少しばかり満足して、元親は購買の状況を教えてやった。
「昼の購買は競争率が高いんだよ!今更いったって運がよくてコッペパンぐらいしか残ってねえよ」
「Shit!!」
男は盛大に舌打ちをした。
元親は反対にざまあみろと思ったが、自分もひもじくなることにはかわりはない。
男は反らした目を光らせて、元親を見た。
「テメエのせいだ!!」
「ああ?!」
いきなり向けられた文句。
今度は元親が盛大に眉を寄せる番だった。
「テメエが絡まなきゃ時間を無駄にすることもなかったんだ」
時間の、無駄。
その言葉に、元親は己の唇をつり上げた。
この言いぐさ。
元親は元来、それほど気が短いわけではない。
が、忍耐強いかといえば、そういうわけでもない。
キレるときはキレる。
ああ、この男には何を言っても無駄であろうと腹を決めるのに要した時間は僅かコンマ5秒。
「も一回小学校から社会のルール学びなおしてきやがれ!!」
「意味わかんねえよ!!」
空を切る右ストレート。
しかし、拳は男のむかつく体をふっとばすことはなく。
一重で避けた男は目をぎろりと光らせて唇を歪めた。
「Ha!おれとやろうってのか?!」
殴り合いに発展したのは、元親の誤算であった。
昼休み、屋上への階段の踊り場で殴り合い。
いつのまにやら、カフェオレも廊下のはしっこに転がされ。
無事だったはずのカレーパンは目も当てられない。
誤算は、この自分とは正反対の眼帯をした男がなかなか床に沈んではくれないこと。
掴みあった両手はぶるぶると震え。
元親はにいと笑った。
何故か、男も同じように笑っていた。
そして。
同時に二人して首を反らし。
石頭な元親の最終兵器。
今までこれをくらって平気だったやつはいない。
「くらいやがれ!!」
首を反らした反動で。
思いっきりヘッドバット。
ごっっと鈍い音が響き。
まぶたの裏に星がとんだ。
二つ目の誤算。
それは、相手も負けず劣らずの石頭であったということ。
『いっっ!!』
あれほど力を込めて掴みあっていた手はあっさりと離れ。
痛いと叫ぶこともできず、二人そのまま後方へノックダウン。
二人同時に廊下に沈む。
背中を廊下につけて身もだえること数秒。
上の方から呆れた声。
「何やってんの、二人とも」
『佐助』
ハモった声に、床に寝ころびながら二人して顔を合わせる。
「いつまでたってもチカはこないし、いつまでたっても政宗はもどってこないし。
何やってるのかと思えば、紹介するまえからじゃれあっちゃって」
『!!』
呆れたような佐助の言葉に、目をがっちりと合わせた一瞬。
それがファーストインパクト。
ああ、今時マンガでも見ないベタな話だ。
*あとがき*
実はダテチカがいいなあと思って初めに出てきた画がこれでした。
すなわち。
ヘッドバットかましてる東西兄貴(学ラン仕様)
殴り愛、万歳!
こいつらはどつき愛漫才がとても似合うと思います(イイ笑顔)