chant
貴方と出会い生を知り 貴方を失い死を知った


勇者との戦いのあと、彼が気をそらしたところをついて、元親を片腕で抱えて跳んだ。
失ったもの、これから失うもの。
あまりの大きさに目がくらみそうになる。
左腕を置き去りにして、その付け根から、そして元親を抱いた右腕からも
血がしたたり落ちていたが、気にもとめずに。
誰か誰か誰か。
何を求めているのか言葉にすらできず、ただ誰かを求めて呼んだ。
失われていく。
政宗の腕の中で、着実に、大切な何かはしたたり落ちていく。
止められないことを政宗は本能で知っていた。
政宗自身、瀕死と言えば瀕死だった。
そういうのであればもう。
元親は半ば、死んでいた。
青い顔、青い唇。
けれど瞳に宿る光はいつにもまして澄んで見えて綺麗だと思う。
その綺麗さに泣きたくなった。
「悪い、な。政宗」
自分たちには差し伸べる手などないことを知ったとき、政宗は己の中を流れる血を初めて憎んだ。
人ではないからと村を出された。
そして魔族ではないからと、今もまた、ただ自分たちを嘲りのまなざしで見下ろすだけだ。
座り込んだまま、元親の体を腕に抱いて、その血を留めようと己自身の体で押さえることしかできなかった。
元親は小さく笑いながら、何故か謝った。
「あいつら、しばらく、見ねえうちに、強くなった、なあ・・・」
その声は満足そうですらあって、元親が勇者を欠片も恨んでいないことを知る。
ゆっくりと向けられた視線。
絡んで、元親はふと息を吐く。
「おれ、お前のそんな、青い顔、初めて、見たぜ」
「黙ってろ」
体を覆い尽くすもの。
飲み込んでいこうとするもの。
絶望か恐怖か。
元親を知ってから、背を向けていられたものたち。
初めて出会ったのは、寂れた村だ。
政宗の中に流れる血を疎み、けれど恐れるが故に殺すこともできなかった村人達。
風化して彼方に消え去ってしまった、どうでもいい記憶。
その中で唯一残っているもの。
光。
見下ろす赤い瞳は澄んでいた。
血を固めたような見事な赤色。
禍々しいと叫ぶ声を聞いた。
けれど政宗は綺麗だと思った。
延べられた手は、小さい擦り傷があった。
政宗と同じような、まだ子供の手だった。
元親が笑ったそのとき、政宗は初めて、自分がこの世界に存在することを知った気がした。
以来、政宗の中にはいつだって、元親がいた。
政宗が存在するのは元親がいたからだ。
その存在のあまりの大きさに身震いした。
抱く一本の腕にすら、力が入らないことがもどかしくて仕方がない。
「みっともねえ、面、してんじゃ、ねえよ」
「黙れ」
失うという仮定すら、あまりに怖ろしくてできやしないのに。
もうすぐその時がやってくる。
そのことを政宗は知っている。
仮定ではない現実として。
それは政宗を打ちのめしはするが、所詮元親のもとへとともに連れ去ってくれるものではなかった。
体を伏せて、最後には懇願した。
誰かに。
「結構、楽しめた、ぜ、まさむね・・・」
「頼むから!もうしゃべ」
「お前と、馬鹿、やれて、たの・・・」
声がふつりと溶けて消える。
その瞳から光が消える。
光が。
光が。
最後の一点。
収縮して、光は、ただのガラスとなった。
元親は笑っていた。
口元で、かすかに。
笑っていた。
その体は砂となって、この手からこぼれ落ち。
空に溶けて消えていくことすら留めることも出来ず。
からんと乾いた音がした。
黒色に光る指輪が落ちていた。
そして政宗の世界から光りは消えた。
永久に。



喉から迸った慟哭はどこか泣き声にも笑い声にも聞こえて我ながら不思議だった。











世界を拒絶していた私は 貴方と出会い生を知り 貴方を失い死を知った
これはシアワセなことですか





+あとがき+
幻水2サントラより。
幻水の音楽は本当に大好きで、結構BGMとしてよく流すんですけど、ふと頭に出てきたこの曲に、
やはりラスボスルートで書きたい!とやっちゃいました兄貴死にフラグ!(ああ・・・)
RPGの筆頭は、基本的に兄貴がいなきゃダメな人なので(文字通りの意味で)
ある意味一番病的な気がしなくもない(大笑いしとこういっそ)
なんたって、強制的無理心中ですからなそりゃ病んでるサ★
この曲が流れるのは、ラストに軍から離れて、もう一度幼なじみと邂逅し、一騎打ちをする場面なんです。
もうね、色々たまらないよね。
いつもいつもジョオイイイ!!!と絶叫しながらその顔に右ストレートをたたき込みたい衝動にかられます。
2主はとりあえずジョウイをぶんなぐるためにここまできたという勢いです。
一回殴り合いの喧嘩しとくべきだったんだよお前らは!!
話がいきなり他ジャンルに脱線しましたが。
ここでは、筆頭は兄貴と殴り合いしておくべきではなくて、
兄貴以外にも大事なものを見つけておくべきでしたね。
まあ無理でしょうが(おいおい)