First impression
彼らと初めて出会ったのは、ただ朽ちていき寂しい風が吹き抜けるだけの廃墟であった。
忘れられた王国のかつての王宮であったそこは、廃墟といえどもその王国がいかに強大であったかを物語るほどに大きく。
けれど、そこにはかつての栄光の面影は欠片もなかった。
ただ寂しさとむなしさだけが留まる場所であった。
そんな廃墟の奥深く。
玉座の間から伸びる地下への階段。
つながった先は今ではもう、誰のものともしれぬ王達の棺が並ぶ墓地だ。
一段高いところに置かれた石造りの棺。
そこに埋め込まれている血の色にも似た宝石。
それが自分たちの目的物であった。
その宝石は鍵だという。
かつて魔王が作りだした強大な兵器の一つを封印した男が眠る棺に埋め込まれたそれは鍵。
復活した魔王に、これ以上力をつけさせるわけにはいかないと、国王に言われやってきた。
その宝石を目の前にしたところで。
後方から、低い、けれど耳に心地よい男の声が響いたのだ。
瞬間、雷にも似た轟きが響き渡り、体をしびれが駆け抜けていった。
思わず地面に膝をつく。
どうやらきっちりと体は麻痺してしまっているらしく、身動きが取れない。
そんな自分たちの横を風のように駆け抜けていく影は二つ。
視線の先にあった棺にたどり着いて、宝石を無造作に、そして無理矢理に引きはがしたのは、白銀の髪をもった男。
「よっしゃ!!間に合ったぜ〜!!」
「間一髪、な。だいたい、アンタが迷わなけりゃこんなギリギリな思いしなくてもよかったんだ」
「うっせえな!だったらテメエが先にいきゃよかったじゃねえか!」
「人の話も聞かずにほいほいと後先考えずに走っていったのを忘れたのか?相変わらずお目出度い頭してやがるな」
「ちゃんと行き先は考えて走ってたっつの!」
「それで迷子になってこいつらに先こされてちゃ世話ねえなあ?」
段の上でいきなり始まった口論。
体の動きは麻痺して自由にならないが、思考することは自由だ。
思い浮かんだのは一つ。
こいつらは何なんだ?
いきなり入ってきて、いきなりこちらの存在を気にもとめずに馬鹿みたいな口論を初め。
というか、いきなり雷なんぞで痺れさせておいてワビもなしか。
内心の不満が通じたのだろうか、ふと、その二人がこちらを向いた。
宝石を手にしたままひらりと降り、麻痺して動けない自分の前まで来て、白銀の髪の男のほうが目線を合わせるようにしゃがみこむ。
その顔にあったのは、申し訳なさそうにみえなくもない眉を下げた間の抜けた表情だった。
「あ〜悪いな。これだけは言っときたいんだけどよ、別に、お前らを先に行かせて、美味しいとこどりしようとしたわけじゃあねえからな?」
「結果だけみりゃ美味しいとこどりした卑怯モンだろ?」
後ろで見下ろしてくる黒髪の男は、どこか楽しそうな口ぶりで横やりをいれる。
白銀の髪の男は首で振り返って、うるせえよ!お前ちょっと黙ってろと文句を言った。
黒髪の男はわざとらしく肩をすくめる。
会話を聞きながら、雷を仕掛けてきた男はどうやら、黒髪のほうだと把握した。
呪文詠唱の声と似ている気がしたからだ。
再度こちらに向き直って、白銀の髪の男はわずかに首を傾いで続けた。
「おれたちもよお、仕事なもんでさ。これ取ってこいって言われちまったからには、取ってこなきゃいけなくてな。
政宗の雷はしばらくじっとしてたら抜けるから。まあ、悪く思わないでくれや」
勝手な言い分だったが、どうして憎めない気がするのは、この男の愛嬌ある目と口調からなのかもしれなかった。
「にしても、ここは結界やら色々面倒なモンが色々あったはずなんだが、アンタら筋いいのな」
感心するように言われても反応に困るし、今は反応もできない。
のぞき込んでくる目の片方は眼帯で覆われていて、見つめてくるあらわになっている瞳は透き通るような赤色をしていた。
「アンタら冒険者だろ?縁がありゃ、また会うかもな」
立ち上がって、あっさりと続けられた言葉。
「そんときゃよろしくな?」
何をよろしくしろというのか分からないまま、二人は風のように部屋を出て行った。
ぽつりと、古の王達の墓場に残されて考えたことは一つ。
しばらくしたら抜けるというが、それはいつの話なのだ。
いつモンスターが襲って来るともしれないところでパーティ全員麻痺で動けないだなんて、洒落にならない。
縁があればというのなら、そこのところをまず考えて欲しいと思いながら、
政宗という男が放った雷のしびれが抜けるのをまだかまだかと待つことになった。
=あとがき=
そんな出会い編。
魔王様のおつかいでダンジョンにやってきた中ボス兄貴s。
趣味はトレジャーハント。
故に、古代の遺物やらの奪取任務をよく押しつけられている。
が、結構楽しんで好き勝手している模様。
罠の解除よりも、罠に引っかかって切り抜ける方が得意。
スマートにマッピングするよりも、迷いながら気がつけばちゃんとした道にきているラックが作用しているほうが多い。
罠にかかるのも迷うのも、互いに互いが悪いと思っているが、どうにかしようという選択肢は存在しないらしい。
なのでいつも仲良くぎゃーこら言い合いながらダンジョンを走り回っている模様。