LOVE割の使用例

Ⅰダテチカの場合

野郎二人でテーマパークに来るのはまあいい。
確かに新しくできたコースターには乗りたかったし、一緒に行く相手が恋人だってのも流れ的には普通だ。
しかし。
「別に二人並んで買いにくることないんじゃねえ?」
フリーパス付きの入場券の話である。
それこそ事前にネットで買うなり、一人が買いに走って一人がゲートで待つのでもいい。
たかだかチケットを買うのに二人並ぶ必要性を、元親はかけらも見いだせなかった。
しかし連れの政宗は頑として二人で買いにいくことを譲らなかった。
「いや、二人で行く必要があるんだよ」
「はあ?!」
「いいから来いよhoney」
「ハニーっつうなや」
まあそこまで言うならと元親はさして抵抗もせずについて行った。
二人で行くことの意味も見いだせなければ、それをごねて抵抗することにも意味を見いだせなかったのだ。
つまり面倒くさかったという。
実際政宗は面倒くさい男だから余計だ。
どうせこれからパークの中で大いにはしゃぐのだから、こんな無駄なところで体力を削るべきではない。
大人しくひょこひょことついて行けば、販売口で政宗は金を出しながら大人二枚と言っていた。
そして、後ろであたりを何とはなしに見ていた元親の腕をひっつかんで隣に並ばせ、ひどく上機嫌に笑った。
「で、あとソレの適用よろしく?」
お姉さんの笑顔が眩しいその前で。
元親がは?と瞬いたところ。
後ろから回された手が容赦なく元親の顎を掴んで固定。
「!!!!」
今更キスごときでとやかく言う気はないが、時と場所と状況によりけりだ。
まさかの屋外、というか、見物人が居る前でのキス。
しかも無理矢理舌を絡めてのディープキスだ。
一瞬真っ白になった元親の頭は、水音が響くにあたって真っ赤にそまりなおした。
「はい、承りました」
お姉さんの笑顔が眩しい。眩しすぎる。
その声でようやく開放された元親は、怒りでくらくらする頭で、とりあえず呼吸をしようと試みた。
「な、な、な?!」
呼吸ついでに問いただそうともして、意味不明な声になる。
が、こちらの言いたいことは伝わったのだろう。
っていうかこんなことしておいて弁明しないほうが問題だ。
一応元親の恋人にはこんなことをしでかした理由があるらしい。
「Hey,元親。アレ見ろよ」
そう言って政宗が示したのは、販売所の上に掲げられたドピンクでキラキラとした輝きのデコレーションのついたポスター。
何故こんな派手なポスターを見落としていたのか、元親は自分で自分の頭をどつきたくなった。
まさか自分たちが適用になるとは欠片も思わなかった・・・というか、あまりにもどぎつい配色に、逆に目がそれたというか。
「Kiss で割引だ。なあ?」
最後の呼びかけは、パスポートを差し出しているお姉さんへ。
お姉さんはあまりにも眩しすぎる笑顔で、朗らかにハイと頷いてくれた。
「テンメエエエエ!!」
「んだよ、学生とカップルに優しいプランは活用しなきゃもったいねえだろうが」
にやにやと人の悪い笑みを浮かべて差し出したパスポートをひったくって、元親は政宗を放って早足でゲートへと向かった。
キスされ損だけはするまいと、遊び倒すことを腹に決めたのだ。


 



Ⅱ佐幸の場合

カップル家族グループ。
雑多様々な人混みで賑わうテーマパーク。
オレ様的にはカテゴライズは1番目希望だけれど、旦那のカテゴライズはきっと2番目。
別にそれが不満とか、拗ねてるわけではない決して。
でなけりゃ惚れた相手と一つ屋根の下で健全に暮らせるもんかっていうのよ。
わくわくと顔を輝かせる旦那をつれて、二人仲良くパスポート&入場券の販売所へ。
野郎二人でテーマパークにいそいそとやってくることを、そもそも周りからどう見られてるか、とか、旦那がどう思ってるのかとかは、
ぶっちゃけどうでもいいのだ。
大事なのはオレ様自身がどう思っているのかってことで。
「あ、大人二枚ね」
座っているお姉さんに指で二枚と示して。
「そんでもって、旦那」
「ん?」
自分と同じくらいの背丈の、けれど自分より引き締まった体躯をおもむろに。
何の躊躇いもなくぎゅっと抱きしめた。
日に焼けたほっぺに音をたててキスをする。
ほっぺチューの感想としては、ちょっぴり汗の味がしたことと、柔らかいっていうよりはやっぱり引き締まってるんだってこと。
旦那は頬に手をやって、面白いぐらいに顔を真っ赤にさせて狼狽えている。
予想からかけらもずれちゃいない反応に思わず笑っちまったよ。
「さ、さささささすけ??」
オレ様はにっこり笑って、販売所の上を指さした。
「キスとハグで割り引きしてもらえるんだって」
「は、はぐ?」
これこれ、と言ってぎゅっともう一回抱きしめれば、旦那は顔を真っ赤にしたまま、おもちゃの人形のように首を縦に振った。
「な、なるほど!
ということは、それがしもしたほうがよいのか?」
まさかそう聞き返されるとは思わなかった絶賛旦那に片思い中のオレ様。
「・・・そうだね~」
旦那は眉を凛々しくきゅっと引き上げて、雄々しく拳を握った。
「よし、では佐助、じっとしておれよ!」
そして旦那はまことに潔く。
オレ様をハグ、そして、頬にキスを贈ってくれた。
がばっと体を離して、それでもどこか楽しそうに破顔して。
「これでそれがしも割引料金だな!」
旦那は我が家の財政を考えてくれての行動だったんだろうけれども。
別に個人個人が一回ずつハグとチューをしなくちゃいけないわけじゃないんだよ、とはもちろん言わない。
ああ、もう何でこの人こんなに愛しいの。


 



Ⅲ慶半の場合

男子高校生にしてはやけに目立つ大柄な体躯。
これまた派手な長髪を、ポニーテールに結んだ彼は、周りからの視線に無頓着だ。
言いかえれば、他人から見られることを慣れているとでもいおうか。
彼は別に芸能人というわけではない。
ただ確かに彼は、芸能人ばりの華やかな空気を纏う男ではあった。
さて、彼は、とあるテーマパークのパスポートと入場券を買うために販売所にいた。
販売員の女性のちょっと熱を帯びた視線も気にせず、特別何の意図もないにっこり笑顔を返して、大人二枚ね!と財布を出した。
と、そこで、上に掲げられたド派手なポスターに気づいたらしい。
感心したように見上げて。
「へえ~、こんなフェアやってんだ。ちょっと待ってもらってもいいかい?」
ジーパンの後ろのポケットから携帯を取り出し。
3コールもしないうちに相手は出たらしい。
「半兵衛、ちょっとチケット売り場まで来てくれよ。
いいからいいから!。
んじゃ待ってるから早くこいよな!」
全く用件を言わない、ある意味一方的な電話を爽やかにして、彼は後ろに並ぶ人たちに、先にチケットを買う順を譲った。
数分後、つとめて平然と、けれど急いできたのだろう、赤みがさした白い肌の連れ、半兵衛がやってきた。
不審そうに半兵衛は眉を寄せて彼を見た。
「何だい慶次君。わざわざ呼び出したりして。
まさか手持ちがなかったとか言うんじゃないだろうね?」
「おお、半兵衛、悪イな」
全く悪いとは思ってなさそうな調子で慶次はそう言い。
窓口の前でこっちこっちと半兵衛を手招いた。
そして。
さも当然と言わんばかりにさりげなく、半兵衛の己よりも線の細いその肩抱いて引き寄せ、
眉をひそめているその顔をのぞき込み。
流れるようにその口唇に、ちゅっと音を立ててキスを攫った。
半兵衛の体が一度痙攣したように震えて、固まる。
慶次はにっこり笑顔をお姉さんに向けた。
「これでいいかい?」
「け、け、け、けーじくん!」
「うん?」
首を傾ぐと慶次の長い髪が揺れた。
「な、な、な」
白い顔をリンゴのように真っ赤に染めて、半兵衛は唇をぱくぱくさせた。
あまりのことに言葉も出ないらしい。
「何だよ半兵衛ー。ほら、パスポートも無事割引価格で買えたし、行こうぜ!」
「慶次君!!」
周りの視線も、ついでに言うと半兵衛の抗議も気にしない慶次は、
何故半兵衛が声を荒げているのか、さっぱり分からないと目を丸くした。