ハッピー・サマー・ウエディング
「だからって何でドレス?」
問答無用で示されたいくつもの型の白いそれを目の前にして、おれは目も反らせずただそれだけを口に乗せた。
隣にいる男はひどく上機嫌だ。
意味不明だ。
いや、結婚を前にした新郎として花嫁のウエディングドレスを選ぶとき満足そうな顔をするという構図は分からなくもないしむしろ普通かもしれないが、
それを着るのが自分だと言われたらそれはどう考えても普通ではない。
だって、おれは男だし。
「何言ってやがる。新郎はタキシード、新婦はドレスだろうが」
「新婦、新婦ね」
その言葉の響きに何故か背筋がぞわぞわした。
ああ許してください。
おれは確かにお前と結婚するのだけれども、プロポーズされたときは確かに嬉しかったのだけれども!!
今この時結婚を考え直したくなりました!!
「つうかさ、お前ちょっとそのかたっぽの目をちゃんと開いて現実みろよ?」
「An?」
「お前の横に並ぶのはおれなんだからな?」
そう言えば、政宗は何故か口の端で笑った。
あ、こいつ何かまたぶっ飛んだ勘違いをしてやがるなと、今までの経験でおれは悟った。
「んなこと言わなくても分かってるぜHoney おれの隣に並ぶのはお前しかありえねえ。
よその女が並ぶなんてことはねえから心配するんじゃねえよ」
そういって頬に唇を寄せてくる。
「いや、そういうこと心配してるわけじゃなくてだな、もっと単純なことであって。・・・っつうかいい加減離れろキスすんなあああ!!!」
ぺたりとくっついてきていた政宗を無理矢理引きはがすと、政宗は少し拗ねたように目を細めた。
「んだよ」
不満そうだ。
思わずこちらが悪いことをしたような気分になったが、騙されないぞとはっと我に返る。
「いやだからあ!何でおれがドレスなんだよ!タキシードでいいじゃねえか!」
「どっちもタキシードなんざ華がねえじゃねえか」
「どっちも男の時点で華なんか求めんな!」
「おれのHoneyは十分に華があると思うがなあ?」
流し目を寄越されて気勢をそがれるが、まだ負けるわけにはいかない。
「だ、だいたい、サイズがねえだろうがよ」
「オーダーメイドだno problem!」
「いや、ノーじゃねえよ、ありまくりなんだよプロブレム」
何でこんな根本的な常識が通じないんだと何故か敗北感に体が押し負けそうになった。
「そんなにドレスが気にいらねえのか?」
問われて、こっくりと頷いた。
いや、だって想像してみたら一発でわかるじゃねえか。
おれは自分がデカイってことを自覚している。
普通、怖いだろ。
政宗はしばし何かを思案したあとあっさりと頷いた。
「I see テメエがそこまでごねるんなら仕方ねえなあ」
分かってくれたかとおれは思わず頬をゆるめた。
のだが。
「じゃあドレスはおれが着てやるよ」
「・・・はい?!」
にやりと唇をつり上げ、政宗は顔を間近に寄せた。
「それはそれで美味しい気もするしなあ。
つまり、お前はおれのヴェールを持ち上げて、お前の方からおれにキスしてくれるってことだよな?
ああ、あともちろんおれを姫抱きしながら教会の外まで歩いていってくれるんだよな?
Are you OK, My Darling?」
政宗の言葉に引きずられるようにして思わず想像。
白いドレス姿でにやりと唇を男前に引き上げる政宗と、そんな政宗を横抱きにしている自分。
絵面を想像して、おれは思わずビシリと固まった。
何故だろう。
反射的に、怖!と絶叫したくなった。
絵面が怖いというよりは、純粋に、その構図はおれに恐怖感を与えた。
その後が怖いというか何というか。
得体の知れない恐怖が肌を冷やした。
「お、おれは別にお前を女装させてえわけじゃねえんだけど」
「だったら素直にテメエが着ろよ。ああちなみに、おれは女の格好したお前にもちゃんと欲情できる自信があるから安心していいぜ」
この話の流れで何を安心しろと胸を張れるのか。
しかも何て台詞を真顔で吐くのか。
一回この男の頭の中を覗いてみたいと真剣に考えた。
ああでもきっと覗いたところで手の施しようがないに違いない。
「前々から一度言ってやろうと思ってたんだが、お前の美的感覚はどっかおかしいと思うぜ。つうかテメエの中にある常識がおかしい」
半ば諦めモードでため息を吐きながらそう言えば、政宗は小首を傾げてかすかに笑った。
何故かひどく偉そうで、何故かひどく嬉しそうだった。
「そんなオカシイおれと結婚しようとしてるのはテメエじゃねえか」
まさしくその通りだ。
そして何が一番恐ろしいことかといえば、、こんな男だと分かっていながら、結婚を考え直そうという気がおきないところだ。
こいつの常識はオカシイと思うが、そんなこいつに惚れてる時点で、おれはきっと常識を語る資格を失っているんだろう。
それに結局の所、おれはこいつに甘いのだ。
抱えた頭でちろりと視線を向ける。
見返す目は笑いながら、さあどっちにする?と問うている。
「・・・・・こんなふざけた格好するのはこれっきりだからな」
「OK」
「露出が多いのは頼むからやめてくれよ?」
せめてもの願いを唇に乗せれば、政宗はもちろんと頷いた。
「誰がお前の生肌を他のヤツに拝ませてやるかよ」
そんなものを見たがるのはお前だけだというツッコミはしないでおいた。
代わりにやっぱりこいつは大馬鹿だと心の中でため息をはいて、おれは諦めてオーダーメイドで作ってもらうための採寸に望んだのである。
=あとがき=
ミツルギさんのヴァージンロードの二人に触発されてどうにも止まらなかった一品。
便乗っていうか、悪のりするにもほどがあるよね★
ちなみに、この二人の後ろには伊達家御用達のデザイナーさんと仕立て屋さんが控えていたりします。
上客も上客で、付き合いも長いので、息子さんがアレなのにも慣れています。
後ろで余計な口は挟まずニコニコと控えております。
プロですから!!
お得意様で上客ですから!!
綺麗なお姉さんに採寸されている最中、たぶん兄貴は居たたまれないのとでしきりに恐縮して謝ってそうです。
そして、「慣れてますから」というさわやかなお姉さんのお言葉を聞き、
職業意識、プロ意識というものの一端に触れ、プチ感動していると思います(何それ)
・・・これミツルギさんに捧げますって言ったらおこられるかしらどうかしら(汗・どきどき)