あいのうた

その日政宗は珍しく仕事がおちついて、久しぶりにゆっくりと部屋で昼食を取っていた。
社長室でテレビをつけるのも久方ぶりのことだ。
テレビにもともと執着のない政宗がわざわざ部屋にテレビを置いている理由はただ一つ。
己の恋人が映るからである。恋人は芸能界に身をおく人間なのだ。
好感度抜群とのことで恋人はバラエティやらＣＭやらにひっぱりだこで、テレビをつければ簡単に顔を見ることができる。
まあ一番は本物に決まってるが、双方互いに忙しい身の上ともなれば、たとえ画面の向こう、不特定多数に向けての笑みであろうとも慰めにはなる。
そんなわけでテレビをつけてみれば、丁度良く恋人の姿が画面に映った。
「お、新作だな」
初めて見るそれはコーヒークリームのＣＭだ。マグカップを持ちながらひいき目をぬいてもぎゅっとしたくなるほどの可愛い笑顔で、何やら歌を口ずさんでいる。
それを聞いた政宗は目をかっと見開いて数秒固まったあと、とりあえず己の秘書を呼んだ。
無理矢理恋人に会いに行く時間をねじ込むためにだ。
そして無理矢理権力と金を無駄に使って、政宗は恋人の自由時間をもむりやりもぎ取り、
不可能なはずの逢瀬を突撃で可能にした。
「政宗！テメエっ、また周りに無理言っただろ！そういう力の使い方はすんなって何回言や気が…」
「元親！！」
「な、何だよ、今日はいつになくマジだなおい。何かあったのか？」
かっかと怒りながらもそうやって心配してくれる様がとても嬉しいと思う。
恋人が怒るのも自分の身を心配してくれての言葉だとは分かるのだが、どうしようもなくなったのだから許してもらいたい。
愛しい恋人の肩をがっとつかんで、真顔で告げる。
「ＣＭ見たぜ」　
「へ？どれ？」
つい先ほど見たばかりのＣＭの名を告げれば、恋人はああと頷いてくれた。
「歌え」　
「はい？」
真顔で無茶を突き動かした原因ともいえる望みを告げれば、恋人は間の抜けた顔をした。
「いいから、歌え、今すぐ、Harry up!」
政宗の真剣を通り越して鬼気迫った様子にびびったのか、恋人は顔を引きつらせて、分かったから取りあえずちょっと離れろと言った。
経済界でも一目置かれる政宗の本気はかなりの迫力で、大概の人間はひるむか下手をしたら半泣きになる。
そして恋人は若干上ずった声で例の歌を口ずさみ始めた。

「おーれがコーヒーで、おーまえがクリープ、だったらいいな、その笑顔、ひとりじめー」

その単純なメロディーとぺたっとした声の調子は、まさしくＣＭどおりの、いやそれ以上の威力でもって政宗を打ちのめした。
本当ならばそのあとに商品名を可愛く叫ぶのだが、恋人がそれを言う代わりに魂の絶叫。
「Yes！！おれの笑顔はアンタだけのもんだ愛してるぜＨｏｎｅｙ！！！！！」
がばりと問答無用で抱きしめれば、意味分かんねえよ阿呆！！！との怒声が返る。
が愛で周りが見えなくなっている社長にはそんなことは関係なかった。
なんたってこのために恋人に会いにきたのである

＋あとがき＋
話がおもいつかん！とペーパーどうするかと唸っていたときに、ええいもう日記で叫んでたクリ○プネタでいってしまえ！と
やらかしたらものすごくスムーズにできた一品（爆）
初めてＣＭみたときからのお気に入りです。
超かわいくないですかあのＣＭ。
あれを兄貴がうたってたらと思うと、もういてもたってもいられなくなるっていうか、
可愛すぎて死にそうになるっていうか。
絶対可愛いと思うの！！！！（もうそれだけである）
まあこんなん歌われちゃあ筆頭もじっとしてられないよね。
そりゃ抱きしめにいっちゃうよね仕方ない。
筆頭は間違ってないよ！！（爆）