melt
頭上にある電光掲示板から歌が流れている。
交差点で信号待ちをしながら、元親はその歌のメロディラインを追いかけた。
耳に馴染んだそれは、幅広い年齢層に支持されているアイドルグループの新曲。
ソロパートの声は、元親の胸を騒がせる低い艶のある男のもの。
思わずつられて、元親はその男のことを考えた。
世間様には絶対に内緒だが。
元親の恋人はそのアイドルだったりする。
今日はバレンタイン。
まさか自分が、世の中の女の子たちのように、バレンタインを気にするようになるとは思わなかった。
バレンタインだろうがなんだろうが、仕事は関係ない。
かくいう元親も、さっきまでスタジオで仕事をしてた。
トップアイドルならなおのこと、今日もみっちり仕事が詰まっている。
仕事場所が同じスタジオで、ちらっと顔を見れただけでも僥倖だと。
そう思ってはいたのだが。
仕事に励む整った横顔をみたことで、余計に欲が顔をだした。
バレンタインは仕事があるから会えないけれど、チョコは欲しいと、
本人からずばっと言われたもんだから、元親は生まれて初めて、バレンタイン用にチョコレートを用意したのである。
百貨店でみつくろった、結構な額のそれ。
店のお姉さんに笑顔で応対されるのは勇気がいったが、望まれたなら叶えてやりたい。
綺麗に包装されたそれは、ちゃんと政宗の自宅に届くように手配してあった。
政宗は仕事でいないが、小十郎がいるはずだから、受け取りにも問題はないだろう。
別に元親はバレンタインだから一緒にすごしたいとか、そういうことを思っていたわけではなかった。
互いに大人なんだし、仕事で会えないからといって文句を言うつもりもない。
でも。
元親はコートのポケットに手を入れた。
指先に触れたのは、コンビニで買っただけの、安い一口サイズのチョコレート。
どうせチョコをやるなら。
顔を見て、直接やりたかったなあとは。
言えるわけがないのだけども。
頭上のビルにある電光掲示板。そこに映し出されているのは、先日発売したばかりの新曲のPV。
見上げれば、元親の意識を占める男の整った顔が映っている。
近くて遠いその距離。
本人からしっかりとCDを渡されて以来、暇があれば聞いていたので、歌詞を見なくてもばっちり歌えてしまう状態の元親だった。
目を伏せて切なげな声が歌う。サビの手前。

『今すぐ君を抱きしめたい』

思わずその声と一緒に口の中で口ずさんで。
「・・・なんてな」
小さく苦笑したところで。
コートを後ろから引っ張られて。
何だと振り返ったら、両腕を握られ体をよせられた。
鼓膜に触れた声。
機械を通したものじゃない、空気を震わせ、元親の耳に触れた吐息。
「・・・チカ」
思わず息をつめていた。
政宗は走ってきたのだろう。鼓膜を撫でる声は掠れている。かすめる吐息が熱くて、己の胸の底も熱くなる。
「・・・お前、仕事は?」
「抜けてきた。今休憩だから」
「休憩なんかすぐ終わるだろ」
「ああ」
「・・・我が儘で周りに迷惑かけたり」
「Ah,分かってる。すぐにもどる」
元親の肩口に顔を伏せていた政宗は、ゆっくりと息をすって顔をあげた。
わずかに頬が紅潮しているその顔を見据えて、元親はとりあえず唇を開いた。
「手エはなせ」
政宗は一瞬不満げな、けれど寂しげな顔をした。
元親の腕を掴む力が強くなって、けれどすぐにその手は元親の言葉通り離れていった。
メロディにのった政宗の声が歌う。

『時間よ止まれ。泣きそうだよ。でも嬉しくて死んじゃいそうだ』

それはまさしく、今の元親の心情と同じもので。
顔を見れただけで満足していた。
それに嘘はない。
だけど。
仕事で忙しいのに、元親を追ってきてくれた。
嬉しくて幸せで、胸が詰まって泣きそうだ。
歌にシンクロしすぎだろと、元親は自分に自分でツッコミを入れた。
政宗が何か言おうと、唇を開く。
言葉を紡ぐその前に。
ポケットに入れていた手を出して。
開いた口の中へ一つ、チョコを放り込んでやれば。
政宗は突然のことに、目を丸くして唇を閉じた。
チョコを食べながら瞬いて状況を把握しようとしている政宗の可愛いさまに、元親は唇を弧に描いて笑った。
「元親、これ」
「コンビニのやっすいチョコで悪イな。でも休憩中の糖分補給にはなるだろ」
「・・・」
変な顔をした政宗に、元親は手を振って注釈をつけてやる。
「バレンタインチョコはちゃんとテメエの部屋に送ってあるぜ」
でもよ、と元親は一度顔を伏せた。
全国にいる、この男のファンの女の子たちに心の中で悪いなと謝って。
「やっぱ、直にやりたいって思ってたんだ」
だってさ。おれだって誰にも負けないくらい、こいつのことが好きだから。
「本命だからよ」
顔をあげて笑ってみせれば。
「Thank you, honey」
チョコレートなんぞ目じゃないくらいに、とろけそうなほど甘い、嬉しそうな顔がそこにあって。
画面に映っている、クール系美形の面影なんか欠片も残っていなかったけど。
ああもう。やっぱり今すぐ抱きしめたいと。
叫ぶ心をどうにか宥めて、元親は仕事にもどるため駆け去っていく愛しい背中を見送った。














*あとがき*
ダテチカオンリーでの無料配布したものです。
いつもは次のペーパーをだしたらアップするのですが、
バレンタインものということもあり、今回は早々にアップさせていただきます。
局地的に盛り上がった筆頭アイドルネタです(爆)
慶次様、ユッキ、筆頭の三人のアイドルユニット、名前は「信号機」です。
リーダーは慶次様。サッケがマネージャー。事務所のトップはマッチこと松(一押し配置)
兄貴は大道具(秀吉も大道具で仲良し)
ハンベは個性派俳優で、名脇役の地位を確立(病持ちとか薄幸役をやらせたら右にでる者はいない)
信号機三人はそのルックスとともに、そのお馬鹿なキャラがお茶の間に受けて愛されているアイドルなので、
よく三人でバラエティによばれたりします。
こいつらはアイドルなのでコンサートとかするわけですが、想像すると楽しくて仕方ない(笑)ぎんぎらぎんの舞台衣装きて、舞台を走り回ってるわけです。
山車とかのったりするわけです。
もちろんチラリズムもどんとこいなわけです。
友人のおかげでアイドルのコンサートDVDを見た知識がそのまんま反映されてる脳内になっています。
客席を煽りまくる黄とかさ!汗が爽やかな赤とかさ!チラリズムがエロすぎな青とかさ!似合うと思うの!!