Drunk Dragon

まさか政宗がこんなに酒に弱いとは思わなかった、と。
当の本人が聞いたらブチ切れそうなことをしみじみと思って、元親は隣で沈没している政宗を見下ろした。
自分自身が相当のザル、いやむしろワクだということについてはあまり自覚のない元親である。
元親にかかったら人類の大半が酒に弱いということになるだろう。
まだまだ元親は酒瓶に手を伸ばす余裕があったが、一人酒というのも、ちと寂しい。
一人で飲む酒も嫌いではないが、今日は二人で飲んでいたのだから、一人取り残されてしまえば飲む気も失せる。
片づけは後にして、とりあえず隣に寝転がっている政宗を、ベットかどこかに運んでやるかと。
酔っぱらいの世話に慣れた元親は、隣に体を向けて、政宗の頬をぺしぺしと叩いた。
少しでも意識が戻ってくれれば、運ぶ手間も多少は軽減されるからだ。
政宗は眉間にくっきりとした皺を刻んで、どこの動物ですかといわんばかりのうなり声を上げた。
「政宗ー、政ー、まーくんー」
思いつくままに名を呼んで頬をぺしぺししていると、元親の手を振り払って、唐突に政宗はがばりと体を起こした。
うお、と声を上げて元親が体をひけば。政宗の視線は宙を彷徨い、そして元親の姿を認めて定まった。
「まさ…」
名を呼ぶ声は、政宗が元親を呼ぶ声に遮られて消える。
「チカ」
腕が元親の体に伸ばされる。え、と反射で元親は体を引いた。
が、諦めず政宗は元親が体を引いたぶん、ずりと膝で距離を詰めてくる。
そのままがっと肩を掴まれ、それ以上元親は逃げることができなくなった。
間近にあるのは酔っぱらいの顔ではなかった。
たしかに、多少赤みは残ってはいるが、むしろ素面の時よりも妙に顔立ちが整っているように見えるのは纏う雰囲気のせいだろうか。
掴まれた肩が痛い。酔っぱらいは分別がなくていけねえ、なんて軽口を叩く間もなく。
「元親、チカ」
子供がするようにしきりに名を呼ばれ。
「すき」
「へ?」
「すき。すきだ。すき」
それこそ子供みたいに拙い言葉で。
切ない、けれどどこか狂おしい熱を閉じこめた黒い瞳が至近距離から元親の意識を絡めとる。
「すき。チカがすき。元親が、好きだ」
「え?え?!」
すき、と呟きながら頬に手のひらがのぼってくる。
あてられた手のひらの温度が生ぬるくて、元親はますます混乱した。
酔っぱらいの戯れ言。その一言で片づけることを忘れるほどに。
見つめてくる目に、好きと紡ぐその声に、とらわれてしまった。
顔が近づく。ただでさえ至近距離にある顔がさらに近づけばどうなるのか。
混乱した頭では状況判断も有効な対策も教えてはくれない。
「好きだ…」
耳朶に触れた熱い吐息がとどめだ。
おれはこのとき確実に一回死んだと元親は後で述懐する。
内心で嵐が吹き荒れたと思ったら、ばたんという重い音が響いた。
はっと視線を下にやれば、数分前と同じく、床に再び沈没している体が一つ。
やはり酔っぱらいは酔っぱらいだったのだ!
声に出さずに乾いた笑いをあげながら、そんな分かり切ったことを考えた。
ととととりあえず片づけを先にしようと立ち上がって、元親は己の足下がふらりと揺れたのを自覚した。
後ろのソファに倒れ込むようにして座り、額を抑えれば、これでもかというほどに熱をおびていた。
なんだか頭がくらくらする。
今まで経験したことがないが、これではまるで。
「ああ、これじゃあまるでおれまで酔っぱらっちまったみたいじゃねえか!」
もう片づけなんて知るか、と酔っぱらいの行動らしくとりあえずそのまま寝ることにした元親だった。
まあだからといってすんなり眠れる訳もなかったのだが。




*あとがき*
タイトルに散々悩んだくせに、ふと閃いたこのタイトルが無性に気に入ってしまった一品(笑)
お笑いコンビさんにいらっしゃいますが無関係です(当たり前だ)
よっぱらい竜とかまんまだけどなんかゴロよくないですか。
ヘルドラゴンみたいで!!!!(ウキウキ)
とりあえず筆頭に兄貴を「チカ」呼びさせてみよう企画でした。
あと子供みたく「すき」と連呼する筆頭(笑)
ちなみに翌日筆頭はまったく覚えておりません(超笑顔)