大阪ラヴァー


「あー」
畳にごろりと仰向けに寝っ転がって、元親は低い声を出した。
全身でだらけていると主張しているような声だった。
実際元親はだらけていた。
まったくもって体に気合いが入らない。
雨が降ってるからなんて馬鹿みたいな理由だったらまだよかった。
雨が理由なら、とりあえず青空を拝めばこのけだるさも解消されるだろうから。
頭の中で暦を数えてみる。
待ち遠しい日まで優にまだ一月以上。
ため息がこぼれた。
雨を眺めてため息をはくだなんて、どこの思春期のおぼっちゃま?という自己ツッコミもどことなく勢いがない。
こんな姿を恋人が見たらどう思うだろうか?
鼻でわらって小馬鹿にするか、そんなに会いたかったのかとこれまた揶揄するか、鬼のわりには殊勝なことをいうじゃねえのと口の端で笑うか、とりあえず笑うだろう。
元親の恋人は口も悪けりゃ性格も悪いのだ。
中身がどんなものであってもしかし、結局の所は大事な恋人。
つまり絶賛元親は、恋人との逢瀬を待ちこがれて憂鬱に浸っているわけだった。
恋しい相手は遥か遠い奥州に居をかまえ。元親との仲は所謂、遠距離恋愛というやつだった。
二人の間には塩辛い瀬戸内海と山々がどかんと立ちふさがっているのである。
ついでにいえば、二人とも一応国の頭をはっているのも壁の一つではあるかもしれない。
向こうがただの男であったら、こっちに来いよと強引に誘うこともできるのだが、それもできないからだ。
逢瀬の地は大阪。
何故大阪なのかといえば、そこが折衷案だったのだ。
互いに互いの領地へ行くには遠すぎるし、他の領主の目もある。
徳川を中心に皆それぞれの領地に落ち着いてはいるとはいえ、連盟や同盟はいらぬ火種をまくからだ。
で、大阪である。
奥州と四国との間の距離で折衷すれば、尾張あたりがいいのかもしれないが、さすがに織田のお膝元で逢い引きをするには何となく背筋が寒くなるので外した。
大阪は天下の台所。
各所から様々な品があつまる。
買い付けと称して足を向けやすいのだ。
いや実際ちゃんと仕事もしているのだから嘘じゃない。
一番の理由では、なかったが。
季節に一回、とはいえ年に四回の逢瀬である。
他国の領主が顔をだすにはいささか多い回数かもしれない。
律儀に顔を出しては奥州の政宗と逢っているのがもれたのか、以前、茶屋で秀吉と半兵衛に現場に踏み込まれたりもした。
早い話が、茶屋でさあこれからというところへ、何の遠慮もなく障子を開けて。
「大阪で密談とは舐められたもんだね、ねえ秀吉?」
「…うむ」
ひさしに額をぶつけたらしい秀吉と、何故か鞭を手にした半兵衛が仁王立ちでたっていた。
思わず元親は固まった。
元親を押し倒して着物の襟に手をかけていた政宗も固まった。
予想もしなかったらしい構図に、半兵衛は不可解そうに眉を寄せた。
この男のこんな不思議そうなとまどったような表情はおいそれとみれるものではなかったが、何の有り難みもなかった。
「君たち、何をしてるんだい?」
これからというところを邪魔された元親は思わず叫んでいた。
「逢い引きだよバカヤロウ!」
「逢い引き?」
半兵衛はちろりと政宗のほうへと目をやった。
立ち直るのは意外にも秀吉のほうが早かった。
一度瞬いたあと、あっさりとその大きな体を折って頭を軽く下げる。
「それは済まなかったな。誤解していた」
半兵衛の襟を掴んで踵を返す姿を二人で呆然と見送った。
半兵衛は、帰るのかい秀吉?!と騒いでいたが、秀吉は気にせず部屋を後にした。
以来、大阪での逢瀬はまことに平和だ。
何の干渉もしてこない秀吉を、元親はイイヤツだと認識を改め、有り難く大阪を待ち合わせ場所にさせてもらっている。
そんなわけで、元親は早く大阪へと旅立ちたかった。
政宗は今頃どうしているだろう?
ああ、もういっそのこと、こっちに来いと強引に腕をとってくれたなら。
「あーだめだ思考回路がいろいろ駄目だ」
元親は頭をくしゃりとかき混ぜた。
元親から言えないことを、あの男が言えるわけがないのだ。
それでももし言ってくれたなら。
戯れごとと知りつつも今だったら頷いちまうなと。
「あー会いてえなあ」
とりあえず、せめて雨だけでも上がってくれよとため息を吐いた。









=あとがき=
大阪インテにてチカ受けオンリーが開催されたときに配ったsss。
タイトルを、今使わずしていつ使う?!と言うためだけに書いたといっても過言ではない(笑)
ダテチカなんですが、何故か筆頭が一言もしゃべってないっていう(・・・)
ひさしに額をぶつける秀吉が書けて楽しかったです(そこ)
あと、雄々しく、逢い引きだよ!!と叫ぶ兄貴が書きたかっただけなのです。
バサラキャラそれぞれが好きで、戦国だけれども、やっぱり戦せずにわちゃわちゃ楽しく集まってるのがいいなあ。