ぼくらのなつやすみ


何故か分からないが、どうやら自分たちは一般的高校生に比べると、サヴァイヴァル能力が著しく高いらしい。



ことの発端は、高校入学して一月も経たぬうちに放り込まれる栄えある行事、林間学校でのことだった。
変わってるとは政宗自身も思ったが、それでも行事と言い切られてしまえば仕方ない。
クラスでの人間関係になれるため、とかクラスの連帯感を高めるため、とか学校側の意図を聞かされたが、
その感想は、なんだか小学生みたいな目標だなあおい、だった。
はっきり言って面倒くさい。
が、いきなりさぼるのも、これまた面倒くさい。
なので政宗は粛々とこの林間学校に参加していた。
まあ、中学からの同級も多いこの高校。
気は楽ではある。
しかし、入学したての高校生たちが思っていたよりも、この林間学校のプログラムは厳しかった。
とりあえず、まずコテージなんて洒落たものはなく、テント。
しかも、ワンタッチでたつようなドーム型ではなく、古くさく、かつゴツイ布地の本格的な三角テントである。
ボーイスカウトやらに入っていない限り、普通の高校生でたてれるような代物じゃない。
一応建て方の説明が書かれた紙は渡されるが、それでも普通はきちんとは建てられないものだ。
が、政宗の班はいともかんたんにこの第一の難問を解決した。
早い話、この手の本格的なテントをたてたことがあるやつがいたのである。
それは誰か。
政宗だ。
普通の高校一年生はテントなんぞ普通たてない。
が、政宗は違った。
むしろ何故こんな基本的なことができないのかと憤慨するのを通り越して不思議にすら思った。
「自分の寝床を確保するのは基本だろうが」
そう言えば、周りのぴちぴち高校生たちは不思議そうな顔をした。
さて、次にはレクリエーションだということで、オリエンテーリングをした。
とはいえ、所詮山である。
村があるとはいえ、坂道山道入り乱れてのオリエンテーリングだ。
磁石とこれまた本格的な地図を渡されても、地図をみることなど普通ない、なりたて高校生たちでは、その二つを使いこなすことは難しい。
地図をみながらああだこうだと唸り合ってる面子を見て、政宗は呆れた。
地図を見ることなど基本中の基本ではないか。
何故地図と一緒に磁石もぐるぐる回転させるのか、なおかつ自分も一緒にぐるぐるまわるのか、政宗はさっぱり意味が分からなかった。
磁石できっちりと方向を確認し、目的地の方向を照らし合わせて、こっちに行きゃいいだろうとあっさりと言うと、
賞賛するよりも疑いが先にたつのか、班の面子は口々に説明を求めた。
面倒くさいとは思いながらも、磁石の使い方地図の見方を説明すれば、見つめてくる目は尊敬できらきらと輝いていて、政宗は不気味さにむしろひいた。
とどめは夕食のカレー作りである。
飯ごう炊さんというやつだ。
簡易ガスコンロなんて便利なものはなく、もちろん薪である。
料理以前の、薪を組むという段階で普通作業はとまる。
とまるはずなのである。
が、さっさと自分がやったほうが早そうだとこれまでの経緯から学習した政宗は、
これまた皆を顎で使って薪を組み、さっさと火をつけてしまった。
マッチを支給されてるだけ楽だろうが、と言えば、皆は恐ろしいモノを見たような顔をした。
果敢に一人が政宗に問うた。
「お前、本当に現代っこか?」
「・・・携帯持ってんだろうが」
そうだよな携帯使いこなしてんもんな!と皆は納得した。
政宗はいかんともし難い気持ちを味わった。
ここにきて、ようやく、自分の方がなにやらおかしいのかと思うにいたったのである。
ちなみに別に政宗はボーイスカウトとかなどの活動に参加したことはない。
林間学校は無事終了した。
確かに、クラスメイトの人間関係は一歩も二歩も進んだ感じがするし、連帯感も養われただろう。
なので、この行事の意義に文句をつけるつもりはなかった。
ただ、駅で解散したあと、他クラスにいる幼なじみの元親に問うてみた。
「なあ、テメエ、周りからやけに感心されなかったか」
元親は頷いた。
「された。化けモン見たみたいな顔されて、我ながら会心だと思う飯の炊きあがりにはヒーローだって感激された」
二人は前を見て帰途につきながら黙り込んだ。
二人の家は近い。
それこそ物心ついたころから連んできた仲だ。
親同士がこれまた仲がよかったのだ。
よって、夏休みに遊びに行くときも、たいがい一緒だった。
夏休み、二人の恒例行事と言えば。
政宗の守り役である小十郎を引率とした、山ごもりだ。
文字通り、伊達家所有の山にこもる。
二人はこれを『お山での修行』と呼んでいた。
テントの張り方、磁石や地図の見方。
火のおこし方から釣りの仕方。
山歩きの仕方から、食べられる植物に至るまで。
それらを小十郎にたたき込まれて夏を過ごしてきた。
自分たちは、今まで夏の過ごし方について疑問を覚えたことはない。
プールに行ったと自慢するやつがいたら、こっちは川で泳いだと言えば負けたことにならないからだ。
実際味気ないプールなんぞよりも、いろいろな生き物がいる川のほうが面白いと思っていたし。
が、ようやく、ここに至って、なんか変だぞと政宗は思った。
隣を歩く幼なじみも思ったらしい。
元親は、何だか難しい顔をしている。
しばらく黙々と歩いて。
「なあ・・・」
二人同時に声を発した。
むくむくと膨らんだ一つの疑問。

















『もしかしてよ、普通の子供ってのは、山で修行しねえのか?』
















ここが学校であれば、クラスメイトは重々しく頷いてくれただろう。






=あとがき=
突発もいいところの、ダテチカっていうかただの幼なじみ二人な小話です。
いや、林間学校でジャージで慣れた風に飯ごう炊さんする兄貴sとか素敵じゃないかとテンションあげたのがもとです。
つまり、現代日本において何故かサヴァイヴァルになれてる兄貴sを書いてみたかっただけなのです。
それ以上でもそれ以下でもありませんすいません。
どうでもいいはなしですが、地図に不慣れな人間は地図を回すらしいですな(友人談)
私は地図を回すタイプです(笑)
ちなみにたぶんこの二人はまだデキてません(笑)
好きとか惚れてるとかアイラブユーとかさっぱりぽんです。
この二人は何かそういう感情もってたとしても自覚するのはすんごい遅そうである(笑)
ギリギリになるまで気づかなくて慌てるタイプだ!(特に筆頭!!)