Embrace

たまにな、抱いてやりたいなって思うときがある。


元親はぽりと人差し指で頬をかいた。
視線の先にいる男。
纏わせた空気はどこまでも剣呑で。
おれはいま不機嫌だと声高々に宣言しているかのようで、
実際まあ、よるな触るなと主張したいのだろうが。
さてどうしようかねえと、その様を視界に収めたまま、
その纏う雰囲気が主張するに従って離れるわけもなく、元親は思案していた。
何かまた、政宗の頭を痛める事態が起こったのだろう。
頭を痛めるだけならまだしも、ついでに中の心まで針で無遠慮につつかれたのかも知れない。
政宗の纏う空気は、半分は拒絶といってもいいような容赦のないもので。
事実、今この場にいるのも元親だけだ。
小十郎も、政宗への気づかいか、遠慮しているらしい。
さて、どうしようかねえ?と元親はもう一度己に問うた。
どうしようという問いは、どうしたいか、ではない。
元親は自分がどうしたいのかは十分に自覚していた。
ただ、行動にうつすには、少々策が必要なのだ。
元親は政宗を抱いてやりたかった。
腕でその体を包んで抱きしめたかった。
が、素直に抱いてやろうかといったところで、政宗がますます態度を硬化させ、それこそ手負いの獣のように神経を尖らせるだけだということも分かっていた。
それこそ、侮辱だとでも感じるんだろう。
別に元親は政宗を軽んじているわけではない。
ただ、慰めてえなあと思っただけだ。
元親は政宗に惚れている。
惚れた相手が心を尖らせているなら、宥めてやりたくなる。
情を、注いでやりたくなる。
それだけのことなのだが。
まあ、そう言って納得するとも思ってはいない。
内心、面倒くせえ男だよなあと思わなくもない。
面倒くさいというか、生き難い男というか、扱い難い男というか。
何でおれはこんな男に惚れてるんだろうな、と今更な自問をしてみた。
自答は単純明快。
惚れちまったんだから仕方ない。
子供っぽい癇癪も、やみくもに周りを傷つける様も、
思うところがないわけじゃあないけれど。
不器用だよなあ、と。
鎧のような自尊心は、行動に裏付けられたもの。
そうやって柔らかい何かを守っているんだろう。
「政宗え」
「・・・何だ?」
冷え冷えとした声。
けれどまあ答えが返ってくるぶんまだましかと、元親は内心で頷いた。
振り返った目は眇められて、それこそ相対する人間がひるみそうになるほど。
けれど、元親は細い悲鳴じみた声をあげるかわりに、へらりと笑った。
膝をついたままずりずりとその体へと這って近づいて。
「・・・何の真似だ」
その鋼の体を腕に抱き込んだ。
声は相変わらず冷え切ったまま。
抱き込んだはずの体は着物一枚、肌一枚で元親を拒絶する。
「寒イ」
「あ?」
笑って、元親は平然とその行動の理由を述べてやった。
「だから、寒イんだって。ちょっとの間、暖まらせてくれよ」
探るような目を平然と受け止めて見つめ合えば。
ふと、呆れたように政宗は元親を見た。
「・・・仕方ねえな」
薄くまとっていた拒絶がふわりと空気に馴染んで消える。
「悪いな」
元親は笑ってちょいと首を傾いで、体を寄せた。
その扱いにくさも愛おしいんだから仕方ねえよなあと。
元親は内心で密やかに笑った。









*あとがき*
ちょいとこれまたネタ妄想をしていて、着流し着てる筆頭とかたまらんよな!
江戸パラレルさいこー!とかいってはしゃいだあと数秒考えて。
・・・そもそもこいつら戦国なんだから普段着着流しじゃん?と自己ツッコミ(・・・)
そんな馬鹿な自己問答をへて、最近戦国書いてなかったなあと思いまして。
兄貴の愛がオトナすぎて、思わず兄貴イイイイ!と縋りたくなった(待て)
おおらかで、けど自己主張もきっちりするオトナな兄貴。
筆頭はガラスのハートな十代です。