『何て威力の殺し文句』

試しに髪の毛を茶色に染めてみたのが二週間ほど前のこと。

その動機が、ぺったりと見える黒髪が気になって

というものであることを知っている人間はいない。

友人たちの反応はまあまあだった。

しかし。

前髪をいじくっていたときにふと政宗は見つけてしまった。

「・・・Shit！枝毛かよっ」

摘んだ毛先が見事にぱっくりと割れているのを見て、

政宗は舌打ちした。

舌打ちして、次いでずーんと肩を落とした。

枝毛を見つける前から何となく気づいていたのだ。

己の髪が、痛んでいるんじゃないかということに。

シャンプーもリンスも気にかけているのに。

ドライアーを当てるときも、ヘアスプレーをしているのに。

毛先はパサパサ。

「ま、政宗？」

横からかかった元親の気遣わしげな声で、

ぷつりと政宗の名中でなにかが切れた。

「やってられっか！！」

「な、何が？」

「髪だよ！このMy hair！このおれの髪が枝毛でばさばさなんてありえねえだろうが？！」

「そ、そうだな」

「もういい。黒に戻してやる」

吐き捨てれば、元親は頷きながら不思議そうな顔をした。

「っつうか、何でお前染めてたんだよ？」

問われて、政宗はぐっと言葉につまった。

一気に冷静になり、冷静を通り過ぎて居心地が悪くなった。

何故茶色に染めたかなんて。

元親の目に、ぺったりとした己の髪がどう映っているのかが気になったからだなんて、言えるわけがなかった。

「・・・真っ黒なんて辛気くさいと思ったんだよ」

目を斜め下に向けて、そう言い訳を紡げば。

「そうか？」

と誠に不思議そうな声が返り、思わず政宗は顔をあげた。

元親は何の含みもなく小さな笑みを浮かべて。

「おれは、テメエの髪好きだけどな」

「・・・」

「純日本人！ってかんじの、綺麗な髪じゃねえか」

目を丸くして思わず元親の顔を見返せば、

一々言うのも変な話だから言ったことなかったけどよ、

と元親は照れたように頬をかいて続けた。

「おれ、お前の混じりけない黒髪が気に入ってたからよ。戻すって聞いて、思わず喜んじまったぜ」

悪いと謝る声を最後まで聞けずに背を向けた。

顔が熱くて、ちょっと死にそうになったからだ。