マスカレイド

「Hey!そんなとこで何やってんだ?」
突如かかったその声に思わずびくりと体を強ばらせたあと、元親は目を見開いて顔を声のしたほうへと向けた。
そこは特別教室があつまった東棟の、さらに人が滅多にこない屋上への階段につづく踊り場だった。
階段の手すりに手をかけて、政宗は下から見上げるようにして踊り場で一人ぎこちなくステップを踏むその姿を、
どこかおもしろそうな目で見ていた。
元親は微妙に顔をしかめた。
それはみられたくないところを見つかった、というような顔でもあったし、
しかもそれがよりによってこいつか、とどこか諦めているような顔でもあった。
空をホールドしていた手をおろして、元親は息吐いた。
政宗は唇で笑んで階段を上る。
「見て分かんだろ?」
嫌そうな口調で言う。
「予想はつくが、生憎と確信がもてなくてね」
首を傾いで笑えば、元親はちっと舌打ちしたようだった。
「その予想であたってるよ」
「ほお。そのステップでねえ」
「だから練習してんじゃねえか」
ああもうだから嫌だったんだと頭をかく。
一週間後に控えたダンスパーティ。
曲目はワルツ。
政宗からすれば単調なことこの上ないステップであるが、元親にとっては未知の体験だったらしい。
元々この学校に来るような金持ちの連中は、たしなみでワルツ程度なら軽く踊れるのだが、元親は別だった。
この男は特待生としてこの学校に通っている。
いわば、普通の人間であって、金持ち趣味や教養なんてものとは無縁に生きてきた人間なのだ。
別にダンスパーティは娯楽の一つであって、強制的な行事ではない。
踊れなければでなければいいだけの話なのだが。
「教えてやろうか?」
「・・・お前が?」
政宗がそう言えば、元親は懐疑的な目をよこした。
好意的な言い分にたいしてのその失礼な反応に、政宗は眉を上げて元親を見返し、
そして問答無用でその手を取った。
無理矢理手を繋いで腰に手をやる。
「ワルツなんてもんは、所詮単純な繰り返しなんだ。とっとと体にきざんじまえ」
「・・・つか、なんでお前、女パート踊れんの?」
「おれさまレベルになりゃ余興で相手パートくらいマスターするのは朝飯前なんだよ」
「ああそうですか!」
渋々といったていの元親であるが、それでも足を動かし始めれば真剣な顔でステップをふむ。
下をみるな。
リードすんのはテメエだろうが。
重心バランスだけは絶対に崩すな。
くるりくるりと回りながら、政宗は冷静に一つ一つ元親に指摘していった。
音楽もない、うすぐらい踊り場で機械的に回る。
元親は口を開くことせず、ただどこまでも真剣に踊っていた。
政宗の言葉どおり、ステップを体に刻み込もうとするかのように。
どれくらい二人で回っていただろうか。
「足踏まなくなったのは進歩だな。まあカカシのワルツよりはマシになったろ」
「・・・お前はもっと素直に誉められねえのか」
呆れたような吐息が唇からこぼれ、政宗は喉で笑った。
「で?何でまたワルツなんざマジメにやろうと思ったんだ?」
政宗の問いに、元親はどこかバツが悪そうに目を逸らした。
「・・・何でも何も、別にいいだろ。おれだけ踊れねえとか、悔しいじゃねえか」
後半の台詞はどこか付け足したようなそっけなさがあった。
政宗は考えるように目を細める。
「悔しい、ねえ?」
唇は弧に描かれ。
「素直に言ったらどうだ?」
「あ?」
元親が眉を寄せれば、至近距離にあったぬらりとした黒い瞳が元親を捕らえた。
「こんなとこで必死に練習なんざしやがって」
握ったその手を強くひかれ、元親は反射的に足を止めようとした。
しかし。
くるりくるりと。
ワルツの円舞がとまることはなく。
ダンスのパートは身長で決まるという。
けれど、そんな言葉を笑うかのように、政宗は流れるような仕草でいつのまにやら元親の役を奪っていた。
見事なリード。
いつのまにやら逆転したパート。
「なあ、素直に言えよ」
腰を抱きよせられ、体を弓なりに反らされて、元親は一度喉を鳴らした。
掴まれた腕がきしむ音がした気がした。
弧に描いた唇から、赤い舌が覗いていた。
元親は射すくめられたように、政宗の黒い瞳から目がそらせない。


「誰を、ダンスに誘うつもりだったんだ?」







=あとがき=
私は学校は公立オンリーなのですが、ミッション系の私立とかならこういうイベントとかあるんでしょうかどうなんでしょうか。
取りあえずストイックな制服着て練習してるのもさることながら、
タキシードきちゃって髪の毛なでつけちゃったりしてたらそれだけでなんかもういい気がしてきた。