好きなもの。
ふわふわきらきら。
料理に裁縫。
そして素敵な恋物語。
剣道部は夏の大会に向けての練習に余念がなかった。
何故なら、今年は期待の大型新人が剣道部に入ったからだ。
中学生のとき、脅威の大会三連覇、三年連続日本一を成し遂げた、伊達政宗。
その政宗をようし、嫌でも剣道部には熱が入った。
もともと入賞者を多く出していて、剣道部としては名門なのだ。
「一本!!」
「ありがとうございました」
練習を終えて、汗を拭うために政宗は道場の外にある水飲み場に向かった。
そんな政宗を遠巻きにして女子たちは小声でもってきゃいきゃいと騒ぎ、
男子たちにいたっても、そのクールさとかっこよさに思わず憧れのため息をもらすという有様だ。
そんな女子たちの中から三人ほど、勇気を出して政宗のもとへ走り寄ってきた。
かすかに顔を紅潮させて、手にした包みをぎゅっと力が入っている。
「あの、伊達くん。これ、今日調理実習で作ったんだけど、よかったら・・・」
顔を拭いていたタオルをおろし、政宗は顔を上げた。
そして、少しだけ眉を寄せてクールさを崩さない程度の殊勝な顔をした。
「悪い。おれは甘いものは得意じゃねえんだ」
そう断りの口実を唇に乗せれば、包みを差し出していた女子は、あっと声をあげ、恥ずかしそうに包みを下ろした。
「そっか・・・。こっちこそ、ごめんね?」
「いや」
可愛らしい包みから無理矢理目を反らして、政宗は息を吐いた。
たぶん中身はクッキーなんだろうと政宗は推測していた。
調理実習室から甘い匂いが漂っていたことは知っている。
が、受け取るわけにはいかなかった。
と、そこへ。
「やめろっつってんだろ?」
「んだよテメエ!」
声にひかれるようにして顔を向ければ、分かりやすいほどのカツアゲ現場がそこで展開されていた。
何もこんな目立つところでせずともよかろうに、と政宗は思うのだが、
道場横にあるこの水飲み場は、普段なら人も少ない目立たない場所なのだ。
今、人が多く目立っているのは、主に政宗が原因である。
が、そんなことは欠片も自覚していない政宗は、小さく息を吐きながら、側に立てかけさせてあった竹刀を手に取った。
政宗は、別に正義の味方を気取る気はさらさらなかったが、目の前で堂々とそんなマネを許しておける人間でもなかった。
「何か勘違いしてんじゃねえの?ソイツがおれらに財布を預けたいっつうからよお」
「いや、そんなわけはねえだろうよ」
どうやらカツアゲされそうになっているのとは別の人間がいるらしい。
大柄な背中だった。
色素の抜けた硬質な銀の髪が、日の光に反射してきらりと輝いた。
政宗は瞬いた。
こんな見事な髪をした人間がこの学校にいただろうか?
政宗は一年にすぎなかったが、有名人ではある。
三ヶ月の高校生活の間に三年の先輩たちに合う機会も、他の一年に比べれば格段に多い。
とりあえず、同学年ではないだろうと政宗は結論をだした。
こんなデカイ体と見事な髪では、一度会えばそうそう忘れないだろう。
その男の後ろにかばわれている男の方には見覚えがあった。
気弱そうないかにもさえない風体。
たしか隣のクラスの人間のはずだ。
政宗は昔から人の顔を覚えるのは得意であった。
政宗が人間観察をしている間にも事態は動いていたらしい。
「どう見たってこいつ、嫌がってんだろ?」
もっともなその言葉に、ちっと舌打ちをする男たちを見て、政宗は一歩踏み出した。
「横からでてきて余計なこと言ってんじゃねえ・・・」
短気な男たちが拳をくりだそうとした瞬間。
政宗の竹刀が鋭く男の顎にヒットした。
思わず仰け反りながら倒れる男。
銀色の髪の男はぽかんとした顔をして、政宗を見た。
政宗も身長は高いほうだが、その男はそんな政宗を軽く上回るほどの体躯であった。
「悪いな」
竹刀を肩にかついで、政宗は己が打ちのめした相手を見下ろした。
「うっかり当たってしまった」
「てめっ」
「おい、やめとけ!!こいつ伊達だぞ」
「伊達?!って剣道部の伊達政宗?!中学で全国制覇三連覇をしたっていう?!」
わざわざ自分の経歴を並べてくれる男たちの期待にそえるように、政宗は目を細めて眼光を鋭くした。
効果は抜群だった。
男たちはそそくさとその場を逃げ出した。
あとに残ったのはヒーローである政宗と被害者であるさえない同級生と。
「よお」
そしてもう一人。
政宗は振り返った。
振り返ってそして・・・。
そこに、ほころぶ花をみた。
「その、なんつうか、ありがとよ」
見上げたその男は、小首を傾げて、にかりと、顔一杯で笑って礼を言った。
きらきらと空気が華やいで輝いているのが見えた。
そして。
政宗のなかで高らかに教会の祝福の鐘の音が響いた。
=あとがき=
やっちゃったよ!!(超笑顔)
色々出てくるツッコミとかしがらみだとか、そんなものは全力でスルーの方向で★
コンセプトは『蜂蜜が吐けるほどのバカップル』
目指せべたべたの少女漫画!!
ええ、わたくし腐女子で乙女ですから!!にこり★(ものすっごい取り合わせだね)