第一話:ア・リトル・ハリケーン襲来
その日の朝は秋晴れという言葉にふさわしいすがすがしさであった。
澄んだ青空が広がり、雲一つない。
やかましくベルを鳴らす目覚ましに反応して、のそりと起きあがる男が一人。
この家の住人の一人である白に近い銀髪の男、名は元親。
元親はぼんやりとした目つきで、寝間着がわりにしているTシャツの中に手をつっこみ、腹のあたりを掻いた。
そのままあくびを一つ。
瞬き二回。
そして顔を洗うために部屋の外へと出る。
時を同じにして。
丁度隣の部屋では、優雅なクラシックがタイマーセットにより、コンポのスピーカーから流れ出していた。
交響曲の調べに、むくりと体を起こす男が一人。
顔にかかる前髪をかき上げるが、目は半眼。
この家のもう一人の住人、大家でもある黒髪の男、名は政宗。
政宗は何も身につけていない上半身で軽く背筋を伸ばし、首をぽきりと鳴らした。
ゆっくりとした瞬きを一回。
そして顔を洗うために部屋の外へと出る。
部屋を出たところで二人は鉢合わせ、互いにまだ覚醒していない目つきで互いを見遣った。
そしてそのまま何も言わずに二人そろって洗面所へ行き、顔を洗う。
そして今度は先ほどよりはまだ開いた目で違いを見遣り。
政宗はズボンのポケットからたばこの箱を取り出した。
とんと手の甲に箱の底を当てて、たばこを二本上に上げる。
元親は一瞬実に真剣な目をしてそのたばこをみやった。
そして一本、抜き取り、残されたほうを政宗も抜き取った。
二人同時に目の高さにたばこの底を掲げて見る。
「おれ朝飯」
「おれは洗濯。・・・またか?」
多少げんなりした声の政宗をよそに、元親はとっとと洗面所を後にした。
ここ数日は連続で朝食係を引き当てている元親だ。
朝食づくりと洗濯では、洗濯のほうが労働量としては多い。
これは今日も幸先がいいと、部屋で着替えながら元親は笑った。
原宿の一等地にある一軒家。
住宅街の中にあるその家は、周りのものと比べると年代を感じさせる。
玄関には3つのピースサイン描かれた看板。
3という数字も今は意味はなく、今この家に住んでいる住人は二人である。
住人の片割れ、元親はスポーツ用品店の店員で、もう片割れの政宗は、ブランドショップの接客担当。
二人が知り合うきっかけは、軽く数年を逆行し、互いの中学時代まで遡らなければならない。
共通項は、二人とも、同じ中学の元番長であること。
今でも二人が原宿で声をかければ、集まってくる後輩や仲間がたくさんいる。
もともと気性が似ている二人は、それなりに騒がしく、それなりに平和に共同生活をこなしていた。
本日の天気は非常に気持ちのいい秋晴れ。
元親は幸先がいいと笑っていたのだが。
小さな嵐が、原宿の横断歩道を歩いて3ピースに向かっていることを、二人は知るよしもなかった。
夜、二人がそれぞれ帰宅し、夕食をすませた丁度そのころ。
来客を告げるベルがなり、二人は顔を見合わせた。
「佐助か?」
「・・・この時間だとどうせそうだろうよ」
近所に住んでいるこの家の元住人の顔を浮かべながら、面倒くさそうに開けた玄関。
その場で固まった元親を不審に思った政宗が、訝しげに玄関にやってくる。
「佐助じゃねえのか?」
己のより背の高い元親の後ろから、ひょいと政宗がそとを覗けば。
外には誰もおらず。
「何だ、だれもいねえじゃねえか」
その声に返された答えはひどく簡潔だった。
「下」
「下?」
言われて政宗が視線をそのまま下ろせば。
りぼんのついた帽子とブレザー。
背負っているのはおそらく、ランドセルというもののはずだ。
右手にもった大きな手提げ鞄。
見上げる瞳はひどく大きく。
元親の丁度腰あたりの背たけの一人の少年。
「・・・こども?」
ぽつりとつぶやいた声に反応したように、目の前の少年は何も言わずに一通の封筒を差し出した。
場所的に腰を屈めてそれを受け取った元親は封筒を開ける。
一枚の紙に簡潔な一文。
元親は声に出してその文を読んだ。
「この子を預かってください」
「Funn?」
一瞬の沈黙の後。
「え?!」
「What?!」
二カ国語で驚きの声。
手紙を見、子供を見返して、元親は後ろを振り返った。
眉を寄せて一言絶叫。
「さては政宗、お前の隠し子かあっっ!!!」
「Han?!何でそうなる!!」
これが気持ちのいい秋晴れの日の最後に訪れた小さな嵐。
コレが三人のはじまり。
***
さあはじまりましたよ現代パラレル。
男二人で共同生活!!
女癖の悪い伊達に対する兄貴の思わずでちゃった本音。
『そこらへん最低限の礼儀はわかっている男だと思っていたのに・・・!!』
激しく誤解されてますよ伊達さん。日頃の行いのせいですね★
ちなみにまだこの二人はただの友人&同居人です。