月立
つ、と
硬く閉じられた
障子の併せを撫でる。
障子一枚隔てた向こうでは
政宗が
元親は障子に
額を擦り付ける。
例え身内でも
絶対に寝顔を見せないと言う
緩んだ姿を見せるのは
恥と考えているのか
それでも
例外はいる
元親は唇を噛んだ。
時代の寵児
惹きつけて已まないのは
最早天性
それでも
絶対の信頼を一身に集めながら
傍らに置くのは
只一人
一人でいいのか
は、と縋るようなため息
障子に一層身を寄せて
それとも
切なげに眉を顰める
一人がいいのか
俺が入る場所は
いっそこの障子を開けてしまおうか
だけど
壊れてしまうのが怖い
何と重い
天岩戸
政宗は気づいているのだろうか
俺がここにいる事を
寝巻き姿で
男の閨の前にいたのでは
夜這いと言われても
思い至って
振り仰げば
見事な満月
もし政宗が起きているとしたら
元親は耳まで
赤く染める。
きっとあの男なら
簡単に開けられるのだろう
悔しくて悔しくて
思い切って手を掛けるのだが
でも矢張り
元親は
泣きそうな顔で
障子に背を向けて
膝を抱えて
月を仰ぐ
いっそ奪ってくれればいいのに
元親は
思い出すように
唇にそっと触れ
赤い顔を膝に埋めた。
月籠
寝乱れた姿
傍らには
銚子や盃
何をそんなに
自棄になる事があったのか
政宗はため息を吐いた
小十郎を呼んで
床を延べさせようとしたのだが
返事が無い
仕方が無いので
自ら足を運んで
整えてやる
自分がこんな事をするのは
全くあの男だけだと言うのに
元親の元に戻ろうとすれば
既に小十郎が
抱きかかえようと
政宗は
目だけで
小十郎を制し
全てを承知の小十郎は
何も言わずに其の場を辞す。
抱き上げて
僅かに紅が差した頬
誰にでも
このようにあどけない
寝姿を晒すのを
苦々しく思う
懐が広く
誰からも信頼され
誰をも信頼するが故の
無防備
その癖
絶大な信頼を一身に受けながら
傍らには
誰も置かず
独りでいいのか
そっと横たえながら
吐息が掛かるほどの距離
それとも
ふわりと髪に唇を寄せ
独りがいいのか
俺が入る場所は
いっそこのまま
奪ってしまおうか
子供のような寝顔
唇をそっと撫で
こじ開けたい衝動
知らないと思っているのだろうか
己の部屋の前で
開けようか
開けまいか
悩んでいるいじましい姿を
開けて入って来たら
思う存分
愛でるものを
このまま奪ってしまえば
只の野暮だが
ああ
それでも今宵は
月天真に出でまさぬ夜
誰も見ていないのなら
そう思いながら
矢張り健やかな
寝息を聞いては
不埒な真似は
死んでも出来ぬと
一頻り
元親の唇を撫で
ゆるりと立ち上がった。
黎明は 互いに遠く。
=一言=
Mの字さんにいただいちゃいましたきゃほおおおおい!!!!(歓喜)
もうじれったいたまんない!!(悶)
何お前ら!!
両思いなのにすれ違い!!両思いなのに一方!!
平行でもなく垂直でもなくねじれの関係かよ!(たまんないよ!)
恋って臆病になるよね、と兄貴の気持ちにシンクロし。
兄貴の寝顔に葛藤する筆頭に。
読後。
奪っちまえよおおおお!!!!と絶叫しました・・・(正直)
ため息がでる素敵な作品ありがとうございました!!