奥様の日常
<朝>
目覚ましの音に反応して体を起こす。
カーテンに強い日光は遮られているが、それでもまぶしい。
何故なら、目覚めたこの時間はもう昼だからだ。
元親はうつぶせになったまま手を伸ばして、目覚まし時計を止めた。
抱え込んでいた枕から顔をあげて、むくりと起きあがる。
元親の朝はだいたいこうして始まる。
まあ、時計の針は絶好調に11時をさしてはいたが。
「あ〜」
声が低いのは寝起きだからという理由だけでは片づかない。
元親はベットの上であぐらをかいて、ぼさぼさの髪に手をつっこんだ。
ぎゅうと目をつむって、よしとばかりに目を開く。
とりあえずは洗顔だとベットから降りようとしたところへ。
がしりと、突如として腰に巻き付いてきた腕に、元親は動きを止められた。
眉を寄せて振り返る。
「Good morning,my honey」
下から見上げてくる甘い視線と声に対して、元親の反応はとても冷静だった。
「モーニンじゃねえよもう」
腰にからみつく腕を手のひらではたいて、元親は腕の主、政宗を睨み付けた。
「おら、目さめたんなら好都合だ。お前今日仕事だろ?とっとと起きて仕度しろ」
「目覚めのキスは?」
唇を引き上げて笑う政宗の姿に、元親はぐっとつまった。
人差し指で招いてキスを強請る様に、首から上が熱くなる。
だいたい視覚的にこちらが不利なのだと元親は思った。
まあなんというか、自分も政宗も明け方眠りについたままの格好なわけで。
着ていたはずの寝間着なんぞベットの横にちらばっている状態だ。
ベットに寝そべった状態で蠱惑的に笑まれたら抵抗するのは至難のわざだ。
しかしここで政宗の思惑に乗るわけにもいかない。
絶対キスだけではすまないという嫌な自信がある。
なので、元親はぐっと腹に力をいれて、腕の拘束を外し、ベットから降りた。
「馬鹿いってねえでとっとと起きろ!!」
言い捨てて火照った顔を冷たい水で引き締めるために部屋を出る。
「つれねえなあ」
くっくと笑うその声はひどく上機嫌で。
訳もなく敗北感におそわれる元親の目覚めであった。
気だるげな様の政宗をバスルームに押し込んで、元親は昼食の準備をした。
時間がない時に作るのはたいていパスタが多い。
寝起きなので、濃い味のものは避けて、きのこの和風パスタにした。
手早くわかめスープも作って準備はオーケー。
身支度を整えた政宗がやってきて、ふたりで一緒にパスタを食べた。
そのあとは、出勤する政宗を見送りに玄関まで一緒に行く。
「お前今日は遅くなるんだよな?」
「ああ。先寝てていいぜ」
元親は分かったと頷いた。
靴をはく姿を何とはなしに眺めながら、こいつは何してても絵になるな、と聞く者がいれば脱力するようなことをしみじみと思ったりした。
芸能人だとか、そんな看板は関係なしに格好いいのだ。
と、そんなことを思っていたら。
いつのまにやら靴をきっちりはき終えた政宗に、流れるような手つきで顎をとらえられ。
「ん・・・」
あれよあれよという間に、唇をいただかれてしまった。
しかも濃厚なディープキスだ。
そちらはいいかもしれないが、こっちは腰が抜けそうになるんだよと内心で文句を言うが意味はない。
ようやく解放されたときには、腰を抜かしてへたりこむことは何とか避けれたが、
それも代わりに政宗の肩にすがってようやく己の体を支えられていただけにすぎない。
何とか呼吸を整えて、あまり力の入らない腕で政宗の体を押しやった。
「とっとと行きやがれ!」
政宗はこりずに元親の頬に音を立てて唇を落としてから、体を離した。
思わず繰り出した元親の蹴りを交わして、喉で笑いながら手を挙げて。
「寂しくなったら遠慮なく電話してこいよ」
「誰がするか!!」
からかいの言葉をに思わず本気で返してしまった元親であった。
<昼>
基本、政宗に仕事が入っているときは、元親の午後は暇である。
政宗がオフの日は、日がな一日二人でだらだらしたり、ジムに行ったりして過ごすのだが、
逆に仕事、特に映画やドラマなどの長期的な仕事が入ると、忙しくて全く家にいないときも多い。
ひどいときなど、「おはよう」や「おつかれ」、といった挨拶くらいしか言えなかったりすることもあるのだ。
まあ何故そんなことになるのかといえば、あいさつもそこそこにベットに引きずり込まれてヤるだけやって寝るとかいうことをしているからであるが、
それはたぶん元親の責任ではない。
取りあえず、極端な生活ではある。
とりあえず昼食の片づけから始まり、部屋の掃除などを順番にこなしていく。
専業主夫ではあるが、元々元親はそれほど家事は得意ではない。
しかし毎日やっていれば慣れていくものだ。
テレビや雑誌などのちょっとした家事の工夫といったコーナーはきっちりチェックをいれてしまっている。
これがまた結構楽しかったりする。
そして夕方間近になると、愛用のバイクにまたがって、少し離れた商店街へと足を伸ばす。
夕食の買い出しのためである。
政宗から言わせれば、駅前の百貨店にでも行けばいいじゃないかということなのだが、元親から言えばとんでもない話である。
だいたい、百貨店は高いではないか。
商店街ならその場の交渉でさらに安くしてもらえるし、店の人とのコミュニケーションも楽しめる。
なので断然元親は商店街派だった。
地元にいたときから、親が商店街を利用していたことも関係しているだろう。
商店街の主要な店では、元親の顔はきっちりと覚えられていて、『ダンナ』とか『チカちゃん』と呼ばれ親しまれている。
よくおまけとかしてくれるので、ますます元親は商店街に通うという構図だ。
実は政宗は元親がそんな商店街のアイドル状態になっているのが気に入らなくて渋い顔をしているのであるが、元親は知らない。
以前も、昼間暇なので、ジムに通いたいといえば、政宗は断固として反対した。
訳が分からず反論しているうちに、ハイレベルなキスとその他諸々に流されて、その日はうやむやになったのだが、翌日。
部屋に色々な健康器具が届けられて元親の目は点になった。
家建てるときはプールつきにするから、今はプールは我慢してくれと真顔で言われ、元親は呆けた顔で頷くしかなかった。
よって部屋の一つはさながらジムのようになっているのだ。
話がそれたが、そんなわけで、今日も元親はバイクを飛ばして買い物に出かけた。
とはいっても、今日の夕飯は一人分だけなので、総菜ですませることにした元親である。
かにクリームコロッケとアジフライを買った。
ここのおばちゃん手作りのコロッケがこれまた旨いのだ。
あと八百屋でごぼうとにんじんを買った。
部屋にもどって、付け合わせのきんぴらごぼうを作った。
明日のおかずにもなるので、いつもと同じ量をつくり、半分はタッパーにいれて冷蔵庫へ。
そしてテレビを見ながら、一人でちょっと早い夕食を食べた。
食事するときは、一人はやっぱり寂しいかなあと、ちらりと思ってしまった元親だった。
<夜>
バスタブに湯を張って体を沈めれば、どっど疲れがでてきたような気がした。
今日だって昼近くまで寝ていたというのに、気持ちのいい温みに風呂の中で、元親はうとうととしていた。
このままでは溺れると、ふにゃけた脳みそがかろうじて警告するのに従って、元親はのそりとバスタブから体を引き上げた。
下着一枚で髪の毛をふきながら、元親は何とも言えない様で顔を歪めた。
目の前にある洗面台の鏡に映っている己の体。
鎖骨の下やら胸の真ん中やらにこれでもかと散らされた鬱血の痕が嫌でも目にはいるのだ。
首はやめろとさんざん言っているからか、今日は首筋は綺麗なものだ。
それでもたまには盛大に首にも赤い痕を残してくれるのだが。
おかげさまで着る服が限定されてしまう。
夏になったら嫌でも薄着になるのだから、そろそろそのへんのところをきつく言っておかなければと元親は決意を新たにした。
元親の寝間着はハーフパンツに半袖のTシャツである。
一年中、冬も同じ格好だ。
取りあえず缶ビールを一本、喉のおくに流し込んで、そのまま寝室のベットの上へとダイブした。
野郎二人寝ているベットなだけに、かなり広い。
元親一人が飛び込んだくらいではびくともしない頼もしさだ。
もそもそと布団の中に入ってとっとと寝てしまおうと元親は考えた。
考えたのだが・・・。
風呂の中ではあんなに気持ちの良い睡魔に襲われたというのに、何故か優しい眠りは訪れてくれなかった。
「何故だ」
真剣な顔で元親は唸った。
体は文句なしに疲れている。
だいたいアイツときたら毎日毎日少しはこちらの身になって考えてみろといいたくなるくらいに夜は元気である。
そう、なので政宗が仕事で遅くなるという今日は、疲れ切った体への休息日なのだ。
故に、別に政宗が隣にいないからといって寂しいとかそういうことではない。
ないはずなのだが。
「・・・ベットが広いからなあ」
枕を抱えてごろりと横向きになる。
元親はいつもは政宗が眠っているそこへ、手を伸ばした。
手のひらに触れるシーツはひんやりとしている。
元親の実家は三世帯同居の、八人家族である。
もともと人が好きな元親は、にぎやかな暮らしには慣れているが、故にあまり一人は好きではない。
「やっぱ一人は寂しいよなあ」
元親は目を閉じた。
しかしやはり睡魔はやってきてくれない。
時計の針は10時を少し過ぎたところ。
遅くなるということは、スタッフたちと飲みに行っているということだろう。
元親はおもむろに体を起こした。
枕元にあった携帯を手に取り、リダイヤルボタンを押す。
電話を耳にあてながらキッチンへと向かった。
もしかしたら出れないかもしれないと思ったが、数コールで相手は電話に出た。
『元親?』
耳に流れ込んでくる声に、無意識に唇がほころんだ。
「政宗?仕事は終わったのか?」
『ああ。珍しいな、お前が電話してくるのなんか。何かあったのか?』
「いや別に」
そう答えれば、少し心配そうだった声色ががらりと変わって、意地悪そうなものになる。
『Ah~ 何だ、寂しくなったのか?』
椅子に腰掛けながら元親は口元で小さく笑った。
「ああ」
『・・・』
「独り寝はやっぱ寂しいぜ。だから」
携帯を耳からはなして、真正面、口元に持って行き。
「早く帰ってこいよDarling」
そして返事も聞かずに通話を切ってやった。
くっくとのど元で笑う。
時計を見た。
ただいま10時15分。
さて、どれくらいで愛しの旦那様は帰ってくるでしょう?
「30分以内に帰ってきたら思わず惚れ直しちゃうな」
その後30分もせずに部屋へと飛び込んできた政宗に、問答無用で押し倒されることになる元親であったが、それはまた別の話。
=あとがき=
・・・・・・・・何こいつら(がたぶる)
こっぱずかしいいんですけどおおおおおおお!!!!!!
穴があったら入りたいっていうかじんましん出るよこれ!!
しかも「ダーリン」「ハニー」言うてますよ。
兄貴が言ってますよ?!
・・・色々な方面に謝りたい。
すいません。
バカップルですいません。
皆さんも一緒にじんましんだしてください(最悪)